$ \DeclareMathOperator{\arccosh}{arccosh} \DeclareMathOperator{\arcsinh}{arcsinh} \DeclareMathOperator{\rank}{rank} \DeclareMathOperator{\rot}{rot} \DeclareMathOperator{\grad}{grad} \DeclareMathOperator{\diver}{div} $

一般方向の Lorentz 変換

特殊相対性理論の基礎をなしている座標変換として Lorentz 変換というものがありますが、 Lorentz 変換はたいていの教科書・文献では以下のように与えられています:
\begin{equation} \begin{pmatrix} ct' \\ x' \\ y' \\ z' \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} \gamma & -\gamma\beta && \\ -\gamma\beta & \gamma & \mbox{\smash{\hspace{2em}\huge 0}}& \\ && 1 & \\ \mbox{\smash{\hspace{2em}\huge 0}} &&& 1 \end{pmatrix}\begin{pmatrix} ct \\ x \\ y \\ z \end{pmatrix} \end{equation}
(1)
ただし、二つの慣性系の相対速度を $V$ として、
\begin{equation} \beta := \frac{V}{c} \end{equation}
(2)
\begin{equation} \gamma := \frac{1}{\sqrt{1-\beta^2}} \end{equation}
(3)
とおきました[1]
しかしこれは二つの慣性系が x 軸に沿って運動している場合の(特殊な)表式です。 これだと軸に沿っていないような速度で動いている慣性系同士の変換は分かりません。
そこで、系 S に対し速度 $\bm{V}$ で運動している系 S' に対する一般方向の Lorentz 変換を求める方法を二通り紹介したいと思います[2][3]

[1]なお $c$ は光速度です
[2]ただし、前半の方は紹介のみで、実際の計算は後半の方法でやります
[3]また、より一般には Lorentz 変換は空間回転や座標反転といった座標変換操作も含むものとして定義されるものです (具体的には Minkowski 内積が不変になる変換ならなんでもいい) 。 ここで求めるのは座標変換を含まない変換であって、これを Lorentz boost(ローレンツブースト) といいます。 (Lorentz 変換) = (Lorentz boost) + (座標変換) となっています

1おやくそく

以下の議論で使う記号を定義しておきます。
まず以下では「静止系」 S とそれに対して速度 $\bm{V}$ で動いている系 S' の間の座標変換を考えることにします。 この速度 $\bm{V}$ を光速度 $c$ でわった量を、
\begin{equation} \bm{\beta} := \frac{\bm{V}}{c} \end{equation}
(4)
と定義します。
系 S および S' のそれぞれの座標を、$(ct, x, y, z)$ および $(ct', x', y', z')$ で表します。 また、
\begin{equation} \bm{x} := \begin{pmatrix} x \\ y \\ z \end{pmatrix} \end{equation}
(5)
とします。 $\bm{x}'$ も同様に定義します。
また、ベクトル $\bm{x}$ の「$\bm{\beta}$方向と平行な成分」および「$\bm{\beta}$方向と垂直な成分」というものをそれぞれ、
\begin{equation} \bm{x}_\parallel := \left(\frac{1}{\beta^2}\bm{x}\cdot\bm{\beta}\right) \bm{\beta} \end{equation}
(6)
\begin{equation} \bm{x}_\perp := \bm{x} - \bm{x}_\parallel = \bm{x} - \left(\frac{1}{\beta^2}\bm{x}\cdot\bm{\beta}\right) \bm{\beta} \end{equation}
(7)
と定義します。

2相対性理論の基本原理から直に求める方法 (紹介のみ)

時空間の等方性や相対性の原理などを考慮すると Lorentz 変換は、$A, B, C$ を定数として、
\begin{align*} ct' & = Act + B \bm{\beta}\cdot\bm{x} \\ \bm{x}' & = \bm{x}_\perp + C \bm{x}_\parallel \\ & = \bm{x} + \left(\frac{C-1}{\beta^2}\bm{x}\cdot\bm{\beta}\right) \bm{\beta} \end{align*}
(8)
と書くことができます[1]
後は x 方向の Lorentz 変換でよくやる二つの方法、すなわち、
  • 時計あわせの原理を適用する (Einstein流)
  • 時刻 $t=t'=0$ で原点から輻射する光波面を考える
のどちらかをやればできます[2]

[1]x 方向の Lorentz 変換での議論と全く同じなので、分からない場合にはそちらを参照してください
[2]計算してませんが、たぶんできるお ;)

3座標回転 + x方向Lorentz変換で求める方法 (今回はこっちで計算!)

3.1概要

もう一つの方法は x 方向の Lorentz 変換を再利用する方法です。 リサイクル♪
つまり、求めたい座標変換は、以下の三つの変換を順次施したものだと見なします:
座標回転 + x方向Lorentz変換で求める方法
このように考えれば、求めたい Lorentz 変換は、
(一番右の回転変換を表す行列) × (中央のx方向Lorentz変換を表す行列) × (一番左の回転変換を表す行列)
という行列の積で計算できます。

3.2回転変換を表す行列

速度ベクトル $\bm{\beta}$ が x-y 平面となす符号付き角度[1]$\theta$ とし、 x-y 平面への射影が x 軸となす符号付き角度を $\varphi$ とすると、速度ベクトルは以下のように書くことができます:
\begin{equation} \bm{\beta} = \beta \begin{pmatrix} \cos\theta \cos\varphi \\ \cos\theta \sin\varphi \\ \sin\theta \end{pmatrix} \end{equation}
(9)
通常の球座標表示とは若干変数の取り方が違うことに注意してください[2]
そうすると、一番初めの回転変換は以下の行列の積で表せることが分かります:
\begin{equation} R := \begin{pmatrix} \cos\theta & 0 & \sin\theta \\ 0 & 1 & 0 \\ -\sin\theta & 0 & \cos\theta \end{pmatrix}\begin{pmatrix} \cos\varphi & \sin\varphi & 0 \\ -\sin\varphi & \cos\varphi & 0 \\ 0 & 0 & 1 \end{pmatrix} \end{equation}
(10)
また明らかに最後の回転変換は $R^{-1}$ ですが、逆行列の計算なんかしなくても、
\begin{equation} R^{-1} = \begin{pmatrix} \cos\varphi & -\sin\varphi & 0 \\ \sin\varphi & \cos\varphi & 0 \\ 0 & 0 & 1 \end{pmatrix}\begin{pmatrix} \cos\theta & 0 & -\sin\theta \\ 0 & 1 & 0 \\ \sin\theta & 0 & \cos\theta \end{pmatrix} \end{equation}
(11)
であることは明らかです。

3.3x軸方向のLorentz変換を与える行列

x 軸方向の Lorentz 変換を与える行列は、この記事の一番初めに (1) 式として与えたように、
\begin{equation} L_x := \begin{pmatrix} \gamma & -\gamma\beta & 0 & 0 \\ -\gamma\beta & \gamma & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 1 & 0 \\ 0 & 0 & 0 & 1 \end{pmatrix} \end{equation}
(12)
です。

3.4計算する!

準備が整ったので計算を行いましょう。 具体的には、
\begin{equation} L = \begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 & R \end{pmatrix} L_x \begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 & R^{-1} \end{pmatrix} \end{equation}
(13)
を計算するだけです。
「だけ」と書きましたが、この計算、ものすごくしんどいです。 自分の場合には途中で計算間違えをしてやり直したこともあって 100 分くらいかかりました。 まぁ修行[3]だと思って頑張ってみてください。 順調にいけば 60 分くらいで完走(?)できると思います。
対称行列になったら、たぶん正解です。 私の場合はこうなりました:
\begin{equation} L = \begin{pmatrix} \gamma & -\gamma\beta_x & -\gamma\beta_y & -\gamma\beta_z \\ -\gamma\beta_x & 1+(\gamma-1)\widehat{\beta}_x^2 & (\gamma-1)\widehat{\beta}_x\widehat{\beta}_y & (\gamma-1)\widehat{\beta}_x\widehat{\beta}_z \\ -\gamma\beta_y & (\gamma-1)\widehat{\beta}_x\widehat{\beta}_y & 1+(\gamma-1)\widehat{\beta}_y^2 & (\gamma-1)\widehat{\beta}_y\widehat{\beta}_z \\ -\gamma\beta_z & (\gamma-1)\widehat{\beta}_x\widehat{\beta}_z & (\gamma-1)\widehat{\beta}_y\widehat{\beta}_z & 1+(\gamma-1)\widehat{\beta}_z^2 \end{pmatrix} \end{equation}
(14)
ただし $i=x, y, z$ として、
\begin{equation} \widehat{\beta}_i := \frac{\beta_i}{\beta} \end{equation}
(15)
としました。
従って、
\begin{equation} \begin{pmatrix} ct' \\ \bm{x}' \end{pmatrix} = L \begin{pmatrix} ct \\ \bm{x} \end{pmatrix} \end{equation}
(16)
として少々計算すると[4]
\begin{align*} ct' & = \gamma(ct - \bm{\beta}\cdot\bm{x}) \\ \bm{x}' & = \bm{x} + \frac{\gamma-1}{\beta^2}(\bm{\beta}\cdot\bm{x})\bm{\beta} - \gamma ct\bm{\beta} \end{align*}
(17)
と分かります。
これであっているのですが、何か $\bm{x}'$ の方の変換がフクザツですね…。
そこで (6) および (7) 式を用いて $\bm{x}$ を速度の平行成分と垂直成分に分けてみるととても綺麗な式になります:
\begin{equation} \bm{x}' = \bm{x}_\perp + \gamma(\bm{x}_\parallel - ct\bm{\beta}) \end{equation}
(18)
もしくは $\bm{x}'$ も平行成分と垂直成分に分けて、
\begin{align*} \bm{x}'_\perp & = \bm{x}_\perp \\ \bm{x}'_\parallel & = \gamma(\bm{x}_\parallel - ct\bm{\beta}) \end{align*}
(19)
と変形できます。
これは日本語で言うと速度と垂直な成分は変更を受けず、速度と平行な成分は x 方向の Lorentz 変換と同様の変換を受けるということを意味しているので、当たり前といえば当たり前の式ですよね…[5]

[1]ただし符号は x 軸より上なら正、下なら負とする
[2]$\theta \rightarrow \pi/2-\theta$ としたものが通常の球座標表示での表し方です。 通常の球座標表示を用いて計算しても、もちろん正しい答えが出るでしょうが、ここでの表し方を用いた方が回転行列が綺麗に書けるのでこちらを採用してみました
[3]何の?
[4]「少々」と書いている割に全然少々じゃない計算量な時がありますけど、あれって何なんでしょうね…? ちなみにこの計算もわりかししんどかったりするw
[5]トータル二時間以上計算してた自分が悲しくなってきた…

4まとめ

S 系と、 S 系に対して相対速度 $\bm{V}$ で動いている系 S' との間の一般方向の Lorentz 変換 (Lorentz boost) は反変・共変量それぞれに対して以下で与えられます。

4.1反変ベクトル

反変ベクトル $A^\mu = (A^0, \bm{A})$[1] に対する変換は以下の通りです:
\begin{equation} \begin{cases} A'^0 = \gamma_V (A^0 - \bm{\beta}_V \cdot \bm{A}) \\ \bm{A}' = \bm{A}_\perp + \gamma_V (\bm{A}_\parallel - A^0 \bm{\beta}_V) \end{cases} \end{equation}
(20)

4.2共変ベクトル

共変ベクトル $A_\mu = (A_0, \bm{A})$ に対する変換は以下の通りです[2]:
\begin{equation} \begin{cases} A'_0 = \gamma_V (A_0 + \bm{\beta}_V \cdot \bm{A}) \\ \bm{A}' = \bm{A}_\perp + \gamma_V (\bm{A}_\parallel + A_0 \bm{\beta}_V) \end{cases} \end{equation}
(21)

[1]ベクトルポテンシャルではありません
[2]Lorentz 計量で添え字を上げ下げ…するまでもなく、$A^0 \rightarrow -A_0$ とおきかえればすぐに出ます