$ \DeclareMathOperator{\arccosh}{arccosh} \DeclareMathOperator{\arcsinh}{arcsinh} \DeclareMathOperator{\rank}{rank} \DeclareMathOperator{\rot}{rot} \DeclareMathOperator{\grad}{grad} \DeclareMathOperator{\diver}{div} $

Laméの弾性定数

弾性体とは変形が加わった際に元に戻るように応力が働く物体のことでした。 前の記事で変形について取り上げたので、ここでは変形と応力との関係を見ていきましょう。

1復習

弾性体とは、変形に応じて応力が働き、元に戻ろうとする連続体だと定義した気がします。 つまり、
\begin{equation} \sigma = f(D) \end{equation}
(1)
となるような函数 f が定義できるような物体です。 変形しなければ応力は働かないので、
\begin{equation} f(0) = 0 \end{equation}
(2)
です。
ところが変形テンソルのうち、反対称部分はただの回転を表すのでそれが応力に関係するとは思えません。 そこで応力はひずみテンソル ${\epsilon^i}_j$ にのみ依存すると考えられます。
\begin{equation} \sigma = f(\epsilon) \end{equation}
(3)
というか、前回弾性体の定義をしたところではひずみテンソルとかをやっていなかったのでアレだったのですが、応力をひずみテンソルによって表せる物体を弾性体だ、と定義し直します。

2線形弾性体

しかし、いくら数式にしたところでちょっと議論が進みそうにありません。 Euler の方程式に代入したところでそれで終わりですし…。
そこで一つ仮定を持ち込みます。
仮定とは何かというと、応力が変形の一次式で表せることです。 式で表すと、
\begin{equation} \sigma^i_{\ j} = C^{i\ \ l}_{\ jk} \ {\epsilon^k}_l \end{equation}
(4)
でしょうか。 例えばバネなんかも伸び縮みがある程度の範囲内ならば力と伸びの間に一次の関係が成り立っていますよね。
このように応力がひずみテンソルの一次式で表せる弾性体を線形弾性体(linear elastic body)といいます。

3等方弾性体

しかし、これでも問題があります。 何かというと、比例係数 $C^{i\ \ l}_{\ jk}$ には $81 (=3^4)$ 個もの独立な成分があり、正直ヤヴァいです。 大杉。
そこでさらに弾性体が等方であることを仮定します。 空間的に等方な弾性体を等方弾性体(isotropic elastic body)[1]といいます。 たいていの弾性体は等方弾性体だと思います。 金属とかゴムとか等方ですよね。 …たぶん。
さてさて、弾性体が等方だというのはどういうことなのでしょうか? それは弾性体を回転しても全く同じなことだといえるでしょう。 従って、比例係数 $C^{i\ \ l}_{\ jk}$ が任意の座標回転に対して形を変えないことがいえます。 しかし、テンソルが任意の座標回転に対して形を変えないとはどういうことなのでしょうか?

[1]そのまんまだけど

4等方テンソル

テンソル $A^{i_1 i_2 \cdots i_n}$ が任意の座標回転に対し不変であるとは、座標変換の係数を ${R^i}_j$ として、
\begin{equation} \\{R^{i_1}}_{j_1} {R^{i_2}}_{j_2} \cdots {R^{i_n}}_{j_n} A^{j_1 j_2 \cdots j_n} = A^{i_1 i_2 \cdots i_n} \end{equation}
(5)
が成り立つことを言います。 このようなテンソルを等方テンソル(isotropic tensor)といいます。
分かりにくいのでいくつか具体例を見ていきましょう。

4.10 階の等方テンソル

0 階のテンソルは座標変換に対して不変ですので、すべて等方テンソルです。 言い換えると、スカラーは等方テンソルです。

4.21 階の等方テンソル

1 軸を反転させるような変換を行うと、成分は、
\begin{equation} (a, b, c) \mapsto (-a, b, c) \end{equation}
(6)
と変換されます。 2 軸、3 軸についても同様に考えると $a = b = c = 0$ がいえます。 逆に、零ベクトルは回転させてもずっと 0 なのでこれは等方テンソルです。
従って 1 階の等方テンソルは零ベクトルのみです。
これは直感的にはベクトル、つまり矢印は首をかしげて見る方向を変えると向きを変えてしまうことに対応しています。

4.32 階の等方テンソル

2 階以上になると計算がかなりしんどくなってくるので結果だけ書きます。
\begin{equation} A \delta_{ij} \end{equation}
(7)

4.43 階の等方テンソル

\begin{equation} A \epsilon_{ijk} \end{equation}
(8)

4.54 階の等方テンソル

\begin{equation} A \delta_{ij} \delta_{kl} + B \delta_{ik} \delta_{jl} + C \delta_{il} \delta_{jk} \end{equation}
(9)

4.6一般の場合

n 階の等方テンソルは、次のようになるらしいです[1]。 A はテンソルではなく、ただの定数だと思ってください。

4.6.1偶数階

\begin{equation} \sum_{i_1, \cdots, i_n} A_{i_1 \cdots i_n} \delta_{i_1i_2} \delta_{i_3i_4} \cdots \delta_{i_{n-1}i_n} \end{equation}
(10)

4.6.2奇数階

\begin{equation} \sum_{i_1, \cdots, i_n} A_{i_1 \cdots i_n} \epsilon_{i_1i_2i_3} \delta_{i_4i_5} \delta_{i_6i_7} \cdots \delta_{i_{n-1}i_n} \end{equation}
(11)

[1]証明は知りません。というか分かりません

5Laméの弾性定数

線形弾性体の比例係数 $C^{i\ \ l}_{\ jk}$ が等方テンソルだとすると、上の結果から、
\begin{equation} C^{i\ \ l}_{\ jk} = A \delta^i_{\ j} \delta_k^{\ l} + B \delta^i_{\ k} \delta_j^{\ l} + C \delta^{il} \delta_{jk} \end{equation}
(12)
と書けることになります。

5.1対称性を考える

ところで、この比例係数の定義式は、
\begin{equation} \sigma^i_{\ j} = C^{i\ \ l}_{\ jk} \ {\epsilon^k}_l \end{equation}
(13)
でした。 右辺のひずみテンソル $\epsilon^k_{\ l}$ は対称テンソルなので、
\begin{eqnarray*} C^{i\ \ l}_{\ jk} \ \epsilon^k_{\ l} & = & C^{i\ \ l}_{\ jk} \ \epsilon^l_{\ k} \\ & = & C^{i\ \ k}_{\ jl} \ \epsilon^k_{\ l} \\ \therefore C^{i\ \ l}_{\ jk} & = & C^{i\ \ k}_{\ jl} \end{eqnarray*}
(14)
が成り立ちます。 (12)式を代入すると、
\begin{equation} A \delta^i_{\ j} \delta_k^{\ l} + B \delta^i_{\ k} \delta_j^{\ l} + C \delta^{il} \delta_{jk} = A \delta^i_{\ j} \delta_l^{\ k} + B \delta^i_{\ l} \delta_j^{\ k} + C \delta^{ik} \delta_{jl} \end{equation}
(15)
ここで例えば $i=k=1, j=l=2$ の時にどうなるか計算すると、
\begin{equation} A \times 0 + B \times 1 + C \times 0 = A \times 0 + B \times 0 + C \times 1 \end{equation}
(16)
\begin{equation} \therefore B = C \end{equation}
(17)
が成り立ちます。 従って、比例係数は $A = \lambda, B = C = \mu$ として、
\begin{equation} C^{i\ \ l}_{\ jk} = \lambda \delta^i_{\ j} \delta_k^{\ l} + \mu (\delta^i_{\ k} \delta_j^{\ l} + \delta^{il} \delta_{jk}) \end{equation}
(18)
と書けます。 逆に右辺は $k, l$ に対して対称な式になっていることを確認してください。
この $\lambda$ および $\mu$ を、Laméの弾性定数(Lamé's elastic constants, Lamé parameters)といいます。 この定数は弾性体の材質に依存する定数です。

5.2応力とひずみの関係

5.2.1応力をひずみで

ではこの結果を最初の(4)式、
\begin{equation} \sigma^i_{\ j} = C^{i\ \ l}_{\ jk} \ {\epsilon^k}_l \end{equation}
(19)
に代入してみましょう。 すると、
\begin{equation} \sigma^i_{\ j} = \left( \lambda \delta^i_{\ j} \delta_k^{\ l} + \mu (\delta^i_{\ k} \delta_j^{\ l} + \delta^{il} \delta_{jk}) \right) \epsilon^k_{\ l} \\ \end{equation}
(20)
\begin{equation} \therefore \sigma^i_{\ j} = \lambda \delta^i_{\ j} \epsilon^k_{\ k} + 2 \mu \epsilon^i_{\ j} \end{equation}
(21)
となります。 添え字 $k$ についても Einstein の規約がきいているとします[1]

5.2.2ひずみを応力で

後で使うような気がするので、上の式を変形して、ひずみテンソルを応力で表してみましょう。 (21)式から、
\begin{equation} \epsilon^i_{\ j} = \frac{1}{2\mu} (\sigma^i_{\ j} - \lambda \delta^i_{\ j} \epsilon^k_{\ k}) \end{equation}
(22)
右辺第二項のひずみテンソルの対角和は、(21)式の対角和をとることで、
\begin{eqnarray*} \sigma^i_{i} & = & 3 \lambda \epsilon^k_{\ k} + 2 \mu \epsilon^k_{\ k} \\ & = & (3 \lambda + 2 \mu) \epsilon^k_{\ k} \\ \therefore \epsilon^k_{\ k} & = & \frac{1}{3 \lambda + 2 \mu} \sigma^i_{\ i} \end{eqnarray*}
(23)
となるので、結局、
\begin{equation} \epsilon^i_{\ j} = \frac{1}{2\mu} \left( \sigma^i_{\ j} - \lambda \delta^i_{\ j} \times \frac{1}{3 \lambda + 2 \mu} \sigma^k_{\ k} \right) \end{equation}
(24)
\begin{equation} \therefore \epsilon^i_{\ j} = \frac{1}{2\mu} \sigma^i_{\ j} - \frac{\lambda}{2 \mu (3 \lambda + 2 \mu)} \delta^i_{\ j} \sigma^k_{\ k} \end{equation}
(25)
と表すことができます。

[1]つまり、$\sum_k$ が省略されているということ