$ \DeclareMathOperator{\arccosh}{arccosh} \DeclareMathOperator{\arcsinh}{arcsinh} \DeclareMathOperator{\rank}{rank} \DeclareMathOperator{\rot}{rot} \DeclareMathOperator{\grad}{grad} \DeclareMathOperator{\diver}{div} $

Eulerのエラスティカ理論

今まで棒の曲げ変形はどれも、曲がり具合は微小だという近似の元で話を進めてきました。
しかし座標をうまく取ることでこの近似を使わない、正確な方程式を立てることができます。 今回はそれを紹介します。

1どこで近似を使っていたか

「曲がりが少ないという近似を使っていた」と言いましたが、ダイレクトにどの部分でその近似を使っていたかというと、曲率は、
\begin{equation} \kappa = \left(1 + \left(\frac{\partial y}{\partial x}^2\right)\right)^{-\frac{3}{2}} \frac{\partial^2 y}{\partial x^2} \end{equation}
(1)
で与えられるのですが、これを、
\begin{equation} \kappa = \frac{\partial^2 y}{\partial x^2} \end{equation}
(2)
だと近似していたのでした。 それ以外の部分では確か近似は使っていなかったハズです。
それで今回は近似を使わないので初めの方の式を使いたいんですが、下の図のように座標を取ると曲率はすごく簡単に表すことができます。
エラスティカ理論における座標の取り方
…なんか棒がイビツな気がするのは気のせいと言うことでw
つまり、棒に沿って $s$ とし、棒の傾きを $\phi$ とする $(s, \phi)$ 座標系を考えます。
それで曲率がどのくらい簡単に表せるかというと、まず曲率半径は明らかに、
\begin{equation} R \Delta \phi = \Delta s \end{equation}
(3)
を満たしますから、
\begin{equation} \kappa = R^{-1} = \frac{\Delta \phi}{\Delta s} \xrightarrow{\Delta s \rightarrow 0} \frac{\partial \phi}{\partial s} \end{equation}
(4)
と表すことができます。
簡単に表すことができましたネ。 何でこんな奇妙な座標系を採用しようと思ったのかも何となく分かると思います。
このような座標をとり、棒の大きな曲げ変形についての解析を行う方法を エラスティカ理論(elastica theory)といいます。 理論の開発者の名前を取って[1] Euler のエラスティカ理論などともいいます。

[1]Bernoulli も関わってたらしいのですが…。詳しい歴史については調べてないので分かりません

2横方向の荷重

それではまずは beam equation(モールの定理) で扱った、横方向(棒に対し垂直に交わる方向)に荷重が加わった場合を考えていきましょう。

2.1一般論

…といっても beam equation の時とほぼ同じ議論ができます。 どこまで同じかというと、力のモーメントのつり合いの式は、
\begin{equation} M_\text{ex} + M_\sigma(s+\Delta s) - M_\sigma(s) = 0 \end{equation}
(5)
ですし、外力によるモーメント $M_\text{ex}$ は、
\begin{equation} M_\text{ex} = -F(s) \Delta s \end{equation}
(6)
という感じです。 x を s に置き換えただけです。 ただ、曲げにより生じる応力のモーメントは、
\begin{align*} M_\sigma(s) & = \int r\sigma \times l(r) dr \\ & = EI\kappa \\ \end{align*}
(7)
となりますが、beam equation の記事ではここで曲率半径を(2)式のように近似したわけですが、今回は近似をせずに、
\begin{equation} M_\sigma(s) = EI\frac{\partial \phi}{\partial s} \end{equation}
(8)
という式になります。
それでこれらを(5)式に代入して計算してあげると、
\begin{equation} M_\text{ex} + M_\sigma(s+\Delta s) - M_\sigma(s) = 0 \end{equation}
(9)
\begin{equation} M_\sigma(s+\Delta s) - M_\sigma(s) = F \Delta s \end{equation}
(10)
\begin{equation} \frac{M_\sigma(s+\Delta s) - M_\sigma(s)}{\Delta s} = F \end{equation}
(11)
ここらへんで $\Delta s \rightarrow 0$ とすると、
\begin{equation} \frac{\partial M_\sigma}{\partial s} = F \end{equation}
(12)
となり、$F = \int w$ でしたので、両辺を s で偏微分して、
\begin{equation} \frac{\partial^2 M_\sigma}{\partial s^2} = w \end{equation}
(13)
\begin{equation} \frac{\partial^2}{\partial s^2}\left(EI\frac{\partial \phi}{\partial s}\right) = w \end{equation}
(14)
となります。 さらにこの式は、EI が定数であることなどを仮定すればより簡単に、
\begin{equation} EI\frac{d^3\phi}{ds^3} = w \end{equation}
(15)
となります。
ちなみにこの式ですけど、曲げが微小な時には、
\begin{equation} \phi \approx \tan\phi = \frac{dy}{dx} \end{equation}
(16)
であり、また棒のラインと水平線はほぼ一致しますから $s \approx x$ であることを考えれば、beam equation のところで導いた式と同じになることを確認してみてください。

2.2重力による曲げ変形

それでは例として重力による曲げ変形でも考えてみましょう。

2.2.1一般解

線密度を $\mu$ とおけば、
\begin{equation} w = \mu g \end{equation}
(17)
ですから、(15)式は、
\begin{equation} \frac{d^3\phi}{ds^3} = \frac{\mu g}{EI} \end{equation}
(18)
となります。 まぁこの微分方程式の一般解は簡単で、
\begin{equation} \phi = Ks^3 + as^2 + bs + c \end{equation}
(19)
です。 ただし K は、
\begin{equation} K := \frac{\mu g}{6EI} \end{equation}
(20)
です。

2.2.2特殊解

それでは次に境界条件を考えて定数を決めていきましょう。
x = 0 (固定端)
固定端では傾きは 0 ですから、
\begin{equation} \phi(0) = 0 \end{equation}
(21)
\begin{equation} \therefore c = 0 \end{equation}
(22)
が分かります。
x = L (自由端)
次に自由端にかかる荷重は 0 つまり $F(L) = 0$ であることから、
\begin{equation} EI\frac{d^2\phi}{ds^2}(L) = F(L) = 0 \end{equation}
(23)
\begin{equation} 6KL + 2a = 0 \end{equation}
(24)
\begin{equation} \therefore a = -3KL \end{equation}
(25)
が分かります。
また、この場所での応力は 0 なので応力によるモーメント $M_\sigma$ も同様に 0 になるはずですから、
\begin{equation} EI\frac{d\phi}{ds}(L) = 0 \end{equation}
(26)
\begin{equation} 3KL^2 + 2aL + b = 0 \end{equation}
(27)
\begin{equation} \therefore b = 3KL^2 \end{equation}
(28)
と分かります。

2.2.3まとめ

以上の結果をまとめると、求める式は、
\begin{align*} \phi & = Ks^3 - 3KLs^2 + 3KL^2s \\ & = K(s^2 - 3Ls + 3L^2)s \end{align*}
(29)
となります。 ところで beam equation では、
\begin{equation} y = C(x^2 - 4Lx + 6L^2) x^2 \end{equation}
(30)
でしたけど、この式を x について微分すると上の(29)式 (に似た式) になることは、きちんとつじつまが合っています。
えーとまぁこれで終わりなんですけど、そういえば最初にエラスティカ理論を使えば近似なんか使わなくても方程式立つんだZE☆[1]とかいいましたが、「じゃあ初めからこれやれよっ!!」とか思いませんでしたか? もちろんエラスティカ理論を使えば近似なんか使わなくても微分方程式は立ちますし、今回みたいに解くこともできるんですが、じゃあ上の式を見ただけでこの曲線がどんな形をしているか分かるでしょうか?
少なくとも私には分かりません。 そんな能力無いです。
普通の人はやっぱり x-y 座標系とかじゃないと想像できないと思います。 しかしこれを直角座標系に(強引に)戻そうとすると、
\begin{equation} \begin{cases} \frac{dx}{ds} = \cos\phi \\ \frac{dy}{ds} = \sin\phi \\ \end{cases} \end{equation}
(31)
なので、
\begin{equation} \begin{cases} x(s) = \int_0^s \cos\phi ds \\ y(s) = \int_0^s \sin\phi ds \\ \end{cases} \end{equation}
(32)
となります。 結局こんな積分実行できないですし、数値計算するしか手だてはありません。
まぁこういう理由があるのでエラスティカの前にアイツらを一生懸命説明したわけです。

2.3一端に荷重がかかった場合

次に棒の一端に棒に垂直な荷重がかかった場合について考えましょう。

2.3.1一般解

$w=0$ ですから、
\begin{equation} EI\frac{d^3\phi}{ds^3} = 0 \end{equation}
(33)
\begin{equation} \frac{d^3\phi}{ds^3} = 0 \end{equation}
(34)
が成り立つので、一般解は、
\begin{equation} \phi(s) = as^2 + bs + c \end{equation}
(35)
です。

2.3.2特殊解

x = 0 (固定端)
固定端では傾きは 0 なので、
\begin{equation} \phi(0) = 0 \end{equation}
(36)
\begin{equation} \therefore c = 0 \end{equation}
(37)
が成り立ちます。
x = L (自由端)
自由端には F の力がかかっているとして、
\begin{equation} EI\frac{d^2\phi}{ds^2}(L) = F \end{equation}
(38)
\begin{equation} EI \times 2a = F \end{equation}
(39)
\begin{equation} \therefore a = \frac{F}{2EI} \end{equation}
(40)
であり、曲げによる応力はかかりませんから、
\begin{equation} M_\sigma(L) = 0 \end{equation}
(41)
\begin{equation} EI(2as + b) = 0 \end{equation}
(42)
\begin{equation} \therefore b = -2as = -\frac{FL}{EI} \end{equation}
(43)
が成り立ちます。

2.3.3まとめ

以上の結果をまとめると、
\begin{equation} \phi = \frac{F}{2EI}(s - 2L)s \end{equation}
(44)
となります。

[1]我ながら痛いとは思うがそこは自重しない

3縦方向の荷重

次に座屈で取り扱ったような、棒と同じ方向に力がかかった場合を考えてみましょう。

3.1一般論

基本的に「座屈」の記事での議論と同じですので、そちらの記事での記号を使いながら説明します。
上から押した力 F が微小部分に及ぼす力のモーメント $M_F$ は、
\begin{equation} M_F = F \Delta s \sin\phi \end{equation}
(45)
であり、棒が曲がったことにより働く応力が $s=s$ にて及ぼすモーメント $M_b(s)$ は、
\begin{equation} M_b(s) = EI\kappa = EI\frac{\partial \phi}{\partial s} \end{equation}
(46)
なので、モーメントのつり合いの式は、
\begin{equation} M_F + M_b(s + \Delta s) - M(s) = 0 \end{equation}
(47)
\begin{equation} F\sin\phi\Delta s + M_b(s + \Delta s) - M(s) = 0 \end{equation}
(48)
\begin{equation} F\sin\phi + \frac{M_b(s + \Delta s) - M(s)}{\Delta s} = 0 \end{equation}
(49)
なので、ここで $\Delta s \rightarrow 0$ として、
\begin{equation} F\sin\phi + \frac{\partial M_b}{\partial s} = 0 \end{equation}
(50)
\begin{equation} \frac{\partial}{\partial s}\left(EI\frac{\partial \phi}{\partial s}\right) + F\sin\phi = 0 \end{equation}
(51)
ですが、まぁいつものように $EI$ が定数であることなどを仮定すれば、
\begin{equation} EI\frac{d^2 \phi}{d s^2} + F\sin\phi = 0 \end{equation}
(52)
\begin{equation} \therefore \frac{d^2 \phi}{d s^2} + \frac{F}{EI}\sin\phi = 0 \end{equation}
(53)
となります。
これは見たことのある形の微分方程式ですねw そう、微小振動を仮定しない場合の振り子の運動方程式です。
そういえば座屈の時に求めた微分方程式は微小振動の振り子の運動方程式と同じでしたよね。 近似を用いた方法と今回のエラスティカ理論を使う方法できちんと対応がとれているのが手に取るように分かります。
また、もう一つ注目して欲しいことがあるのですが、F がどんな値を取ろうとも、$\phi \equiv 0$ は常に上の微分方程式の解となっていることが分かります。 これはつまり、棒の傾きが全くない状態、つまり棒が変形を起こしていない状態が常に有り得ることを示しています。 当たり前だと言われれば当たり前ですが、すごいと思いませんか?[1]

3.2分かりやすい形に

で、棒の形状を表す微分方程式が分かったわけですけど、あの方程式は解くことができないというのは有名な話です。
仕方ないのでこれも数値計算に頼るしかないんですが、しかしこのままコンピュータに解かせたとしても分かるのは $(\phi, s)$ の関係式なので、直接グラフに表せません。 そこでもう少し分かりやすい形にしてあげます。
まず両辺に $\frac{d\phi}{ds}$ をかけて積分すると、
\begin{equation} \frac{d^2 \phi}{d s^2}\frac{d\phi}{ds} + \frac{F}{EI}\sin\phi\frac{d\phi}{ds} = 0 \end{equation}
(54)
\begin{equation} \frac{1}{2}\left(\frac{d\phi}{ds}\right)^2 - \frac{F}{EI}\cos\phi = C \end{equation}
(55)
となります。 積分定数 C ですが、これは棒の自由端側では曲げにより生じるモーメント $M_b$ が 0 であることを用いると、
\begin{equation} M_b(L) = 0 \end{equation}
(56)
\begin{equation} EI\frac{d\phi}{ds}(L) = 0 \end{equation}
(57)
\begin{equation} \pm \sqrt{2\left(C+\frac{F}{EI}\cos\left(\phi(L)\right)\right)} = 0 \end{equation}
(58)
\begin{equation} C = -\frac{F}{EI}\cos\left(\phi(L)\right) \end{equation}
(59)
なので、
\begin{equation} \phi_L := \phi(L) \end{equation}
(60)
とおくと、
\begin{equation} C = -\frac{F}{EI}\cos(\phi_L) \end{equation}
(61)
とすることができます。
これを(55)式に代入すると、
\begin{equation} \frac{1}{2}\left(\frac{d\phi}{ds}\right)^2 = \frac{F}{EI}\left(\cos\phi - \cos\phi_L\right) \end{equation}
(62)
となります。
ここで座標を $\frac{d\phi}{ds} \ge 0$ となるように取ることにすれば[2]
\begin{equation} \frac{d\phi}{ds} = \sqrt{\frac{2F}{EI}\left(\cos\phi - \cos\phi_L\right)} \end{equation}
(63)
\begin{equation} ds = \frac{d\phi}{\sqrt{\frac{2F}{EI}\left(\cos\phi - \cos\phi_L\right)}} \end{equation}
(64)
とできるので、x, y はそれぞれ $\phi_L$ を用いて、
\begin{equation} x = \int_0^s \cos\phi\ ds = \sqrt\frac{EI}{2F} \int_0^\phi \frac{\cos\phi\ d\phi}{\sqrt{\cos\phi - \cos\phi_L}} \end{equation}
(65)
\begin{align*} y & = \int_0^s \sin\phi\ ds \\ & = \sqrt\frac{EI}{2F} \int_0^\phi \frac{\sin\phi\ d\phi}{\sqrt{\cos\phi - \cos\phi_L}} \\ & = \sqrt\frac{EI}{2F} \left[-2\sqrt{\cos\phi - \cos\phi_L}\right]_0^\phi \\ & = \sqrt\frac{2EI}{F} \left(\sqrt{1-\cos\phi_L} - \sqrt{\cos\phi-\cos\phi_L}\right) \end{align*}
(66)
と表すことができます。
また $\phi_L$ については、(64)式を棒の端から端まで積分することで、
\begin{equation} \int_0^L ds = \sqrt{\frac{EI}{2F}} \int_0^{\phi_L} \frac{d\phi}{\sqrt{\cos\phi - \cos\phi_L}} \end{equation}
(67)
\begin{equation} L = \sqrt{\frac{EI}{2F}} \int_0^{\phi_L} \frac{d\phi}{\sqrt{\cos\phi - \cos\phi_L}} \end{equation}
(68)
という方程式が得られるので、これを数値計算で解けば $\phi_L$ を決めることができます。

[1]そういえば「座屈」の時に求めた微分方程式も $y \equiv 0$ は解になっていますねw
[2]えー、くねくねしてるとこういう風にとれないので、今回はそういうのはムシな方向で