$ \DeclareMathOperator{\arccosh}{arccosh} \DeclareMathOperator{\arcsinh}{arcsinh} \DeclareMathOperator{\rank}{rank} \DeclareMathOperator{\rot}{rot} \DeclareMathOperator{\grad}{grad} \DeclareMathOperator{\diver}{div} $

四種の弾性定数

前回の記事では線形等方弾性体の変形と応力の関係 (Lamé の弾性定数) を導きました。
しかし Lamé の弾性定数は現実の物体の変形に沿って定義されたものではなく、理論的な考察から出てきたもので直接測定するのは困難です[1]
そこでここでは単純な変形に対する考察から Lamé の弾性定数とは異なる四種の弾性定数[2]について調べていきます。
なお、これ以降は特に断り書きがない限り、ラメの弾性定数の式が成り立つような弾性体[3]を考えることとします。

[1]$\mu$ は頑張ればいけなくもない気がするけど、$\lambda$は無理っぽい
[2]Young率、Poisson比、剛性率、体積弾性率
[3]線形かつ等方な弾性体で、応力がひずみテンソルにのみ依存する弾性体でしたね

1復習。

後でたくさん使うので Lamé の弾性定数の定義式をもう一度。
\begin{equation} \sigma^i_{\ j} = \lambda \delta^i_{\ j} \epsilon^k_{\ k} + 2 \mu \epsilon^i_{\ j} \end{equation}
(1)
これを逆に解いて、
\begin{equation} \epsilon^i_{\ j} = \frac{1}{2\mu} \sigma^i_{\ j} - \frac{\lambda}{2 \mu (3 \lambda + 2 \mu)} \delta^i_{\ j} \sigma^k_{\ k} \end{equation}
(2)
でしたね。

2Young率とPoisson比

まずは弾性体として棒状の物体を考えます。 この物体の一端を壁にくっつけ、右から圧力 $p$ で引っ張った時を考えます。
棒の伸縮変形
そうすると、応力テンソルは、
\begin{equation} \sigma^i_{\ j} = \begin{cases} p & (i = j = 1) \\ 0 & (\text{otherwise}) \end{cases} \end{equation}
(3)
となります。
従って、Lamé の弾性定数、(2)式から、
\begin{align*} \epsilon^1_{\ 1} & = \frac{1}{2\mu}p - \frac{\lambda}{2\mu(3\lambda+2\mu)}p \\ & = \frac{\lambda+\mu}{\mu(3\lambda+2\mu)}p \end{align*}
(4)
\begin{equation} \epsilon^2_{\ 2} = \epsilon^3_{\ 3} = - \frac{\lambda}{2\mu(3\lambda+2\mu)}p \end{equation}
(5)
\begin{equation} \epsilon^i_{\ j} = 0 \ (i \ne j) \end{equation}
(6)
となります。
これを見ると分かるとおり、棒が引っ張った方向に伸びる ($\epsilon^1_{\ 1}$) のはいいとして、図でいうと上下方向にも伸び縮み ($\epsilon^2_{\ 2}, \epsilon^3_{\ 3}$) する[1]のが分かります。
図には既にこのことを書いてしまいましたが[2]

2.1Young率

棒を押せば短くなりますし、引っ張れば長くなります。 どれだけ押すとどれだけ短くなるか、もしくはどれだけ引っ張るとどれだけ長くなるかを表す比率をYoung率(ヤング率)といいます。 Young という名前は Thomas Young に由来します。 「誰?」と思った人は、二重スリットを使った、光の波動性を示すとされる Young の実験をした人、といえば分かるでしょうか。
うんちくはこのくらいにして本題を進めます。 Young 率とは圧力と棒の伸縮率との関係なので、
\begin{equation} \epsilon^1_{\ 1} = \frac{\lambda+\mu}{\mu(3\lambda+2\mu)} p \end{equation}
(7)
\begin{equation} \therefore p = \frac{\mu(3\lambda+2\mu)}{\lambda+\mu} \epsilon^1_{\ 1} \end{equation}
(8)
だったので、この右辺の、
\begin{equation} E := \frac{\mu(3\lambda+2\mu)}{\lambda+\mu} \end{equation}
(9)
Young 率(Young's modulus)といいます。
Young 率が大きい物体では、同じ変形をさせるのに大きな圧力が必要となります。 途中で逆数をとったのはこのような分かりやすい量にするためですね。
また、これは、(8)式から、
\begin{align*} E & = \frac{p}{\epsilon^1_{\ 1}} \\ & = \frac{p}{\Delta l/l} \end{align*}
(10)
となります。
冒頭で「ラメの弾性定数なんか直接測れるかっ!」とか言った気がしますが、これなら測れますね[3] (^^

2.2Poisson比

さて、棒を押したり引いたりするとその方向だけでなく、上の図で言うところの上下方向にも伸び縮みすることがいえましたね。
物体によって左右方向の伸び縮みと、上下方向の伸び縮みの比は異なります。 そこでこの比、
\begin{equation} \sigma := \left| \frac{\epsilon^2_{\ 2}}{\epsilon^1_{\ 1}} \right| = \left| \frac{\epsilon^3_{\ 3}}{\epsilon^1_{\ 1}} \right| \end{equation}
(11)
Poisson 比(ポアッソン比、ポアソン比)(Poisson's ratio)[4]といいます。
なんか応力テンソルと紛らわしいですよね…。 両方とも一般的にはこの記号を使うのでこのまま続けますけど。
なお、これは、(8)式、(5)式あたりから、Lamé の弾性定数を使って、
\begin{align*} \sigma & = - \frac{\epsilon^2_{\ 2}}{\epsilon^1_{\ 1}} \\ & = \frac{\lambda}{2\mu(3\lambda+2\mu)}p \div \frac{\lambda+\mu}{\mu(3\lambda+2\mu)}p \\ & = \frac{\lambda}{2(\lambda + \mu)} \end{align*}
(12)
とできます[5]
また、横方向の伸び $\Delta l$ と縦方向の縮み $\Delta a$ を用いて、
\begin{equation} \sigma = \frac{\Delta a / a}{\Delta l / l} \end{equation}
(13)
と書くこともできます。
これより、この値も簡単…かどうかは知りませんが、測定できることが分かります。

2.3逆に解いてみる

さてさて、以上で Young 率と Poisson 比という二つの異なる弾性定数を導いたわけですが、そういえば Lamé の弾性定数も $\lambda, \mu$ の二つでしたね。
ということは、上に書いた二つの式、
\begin{equation} E = \frac{\mu(3\lambda+2\mu)}{\lambda+\mu} \end{equation}
(14)
および、
\begin{equation} \sigma = \frac{\lambda}{2(\lambda + \mu)} \end{equation}
(15)
を逆に解けば Lamé の弾性定数を直接測定可能な値[6]である Young 率と Poisson 比で表すことができます。
この二つの式は高々二次の連立方程式なので、簡単に[7]解くことができます。 頑張って解いてみると、
\begin{equation} \lambda = \frac{\sigma}{(1-2\sigma)(1+\sigma)} E \end{equation}
(16)
\begin{equation} \mu = \frac{E}{2(1+\sigma)} \end{equation}
(17)
となります。

[1]実際の物体では、引っ張ったときには必ず細くなり、押し込んだときには必ず太くなります
[2]失敗だったカナ?
[3]ただ金属とかだと、固くて$\Delta l$がとても小さくなるので大変そうですけどw
[4]なんか毒っぽい名前ですよね、Poisson って…
[5]教科書 (巽 友正『連続体の力学 岩波基礎物理シリーズ2』, 岩波書店(2009), p.68 (3.13)式) 間違ってるお (´・ω・`)
[6]「実験で測定した値に直結する」値、ぐらいに思っておいてください
[7]自分で計算してみたら何回か間違えしてしまったのは秘密です

3剛性率

次に弾性体に面に平行な力を加えてずらすことを考えてみましょう。
弾性体の単純ずれ変形
なお、このような変形を単純なずれ変形(simple shear deformation)などといいます。
さて、いま、変形テンソルは $D^1_{\ 2} = D$ のみ存在し、残りの成分はすべて 0 なので、ひずみテンソルは、
\begin{equation} \epsilon^1_{\ 2} = \epsilon^2_{\ 1} = \frac{D}{2} \end{equation}
(18)
であり、残りの成分はすべて 0 なので、応力テンソルは(1)式から Lamé の弾性定数を用いて、
\begin{equation} \sigma^1_{\ 2} = \sigma^2_{\ 1} = \mu D \end{equation}
(19)
であり、残りの成分はすべて 0 です。
同じ変形 D を起こすのに、$\mu$ が大きくなればなるほど、たくさんの応力が必要になるので、この意味で $\mu$ のことを剛性率(shear modulus, modulus of rigidity)などといいます。
ちなみに、面に水平方向にかけた応力を p とおけば、剛性率 $\mu$ は、
\begin{equation} \mu = \frac{p}{D} = \frac{p}{\Delta x^1 / x^2} \end{equation}
(20)
と表せるので、これは簡単に測定できそうですが、実際に単純なずれ変形を起こすには、上から押し込んでから横方向に力をかけないと滑ってしまうため、$\sigma^2_{\ 2}$ という応力が発生してしまうので難しいのではないのでしょうか[1]
ところで、応力はずらした方向に働く $\sigma^1_{\ 2}$ だけでなく、$\sigma^2_{\ 1}$ という成分も存在するのですが、押してもないのに応力がかかる…というのはなんだかフシギというかブキミというか、そんな感じがしませんか?
この変形では変形テンソルが非対称なので、回転テンソル成分も存在します。 従って、この変形は、
単純ずれ変形の分解
という変形の合成と考えることもできます。
一番左から中央への変形を見れば、応力は二方向に働いていそうですねw

[1]よく知らんけど

4体積弾性率と圧縮率

弾性体をすべての方向から一定の力で引っ張ることを考えます。
静水圧下での変形
なお、今までの議論ではすべて張力を正としていたので、ここでもそれに従うことにしますが[1]、普通は圧力を正にとって、すべての方向から一定の圧力が加わっているとき、その圧力を静水圧(hydrostatic pressure)といいます。 その名の通り、静止している水に働く力などが例としてあげられます。
さて、応力については明らかに、
\begin{equation} \sigma^1_{\ 1} = \sigma^2_{\ 2} = \sigma^3_{\ 3} = p \end{equation}
(21)
であり、その他の成分については 0 です。
上での議論と同様に、(2)式を用いてひずみテンソルを計算すると、
\begin{align*} \epsilon^i_{\ i} & = \frac{1}{2\mu}p - \frac{\lambda}{2\mu(3\lambda+2\mu)} \times 1 \times 3p \\ & = \frac{3\lambda + 2\mu - 3\lambda}{2\mu (3\lambda + 2\mu)} p \\ & = \frac{p}{3\lambda + 2\mu} \end{align*}
(22)
であり、$i \ne j$ なる $\epsilon^i_{\ j}$ 成分はすべて 0 になります。
前方向から張力が働き変形すると、それに応じて体積が変わりますね。 そうすると、変形量を考えるよりも、体積を考える方が自然な気がします[2]
そこで、前にやった体積ひずみを計算すると、
\begin{equation} \diver V = \sum_i \epsilon^i_{\ i} = \frac{3}{3\lambda + 2\mu} p \end{equation}
(23)
となります。 この右辺の比例係数、
\begin{equation} \kappa := \frac{3}{3\lambda + 2\mu} \end{equation}
(24)
のことを、圧縮率(compressibility)といいます。 圧縮率の大きい弾性体では、同じ圧力で大きな変形を及ぼすことになります。
また、
\begin{equation} p = \frac{3\lambda + 2\mu}{3} \left(\diver V\right) \end{equation}
(25)
とも表せるので、この右辺の係数、
\begin{equation} K := \frac{3}{3\lambda + 2\mu} \end{equation}
(26)
のことを体積弾性率(bulk modulus)といいます。 体積弾性率が大きいと、同じ体積ひずみを起こすのに大きな圧力が必要になります。
体積弾性率は、
\begin{align*} K & = \frac{p}{\diver V} \\ & = \frac{p}{\Delta V / V} \end{align*}
(27)
と表すこともできます。 これも現実の値に直結する物理量ですね。

[1]なんかごめんなさい (>.<)
[2]形がフクザツな場合など特に