$ \DeclareMathOperator{\arccosh}{arccosh} \DeclareMathOperator{\arcsinh}{arcsinh} \DeclareMathOperator{\rank}{rank} \DeclareMathOperator{\rot}{rot} \DeclareMathOperator{\grad}{grad} \DeclareMathOperator{\diver}{div} $

座屈

細い棒を地面に垂直に立て、上から力を加えていくと突然右や左に折れ曲がってしまうことがあります。 この現象を座屈(buckling)といいます。
今回は、この座屈についてみていきましょう。

1設定

座屈
上の図のように、床に垂直に立てた棒を上から F の力で押して曲がったときを考えます。
ただし、曲がりは微小とします。 また、上から押し込むことになるので Young 率に比例した長さだけ棒は縮む訳ですが、その縮みは一般的に小さいのでその縮み量は無視してしまいます。

2モーメントのつり合い

beam equation の時と同じように $x$$x+\Delta x$ に挟まれた微小部分の力のモーメントのつり合いを考え、方程式を立ててみましょう。
まぁ図を見てもらえば分かりますが、この微小部分にかかる力は外力(上から押している力) F と、隣接する弾性体から頂戴する応力なので、それぞれについてモーメントを考えていきましょう。

2.1外力のモーメント

まず外力 F から頂くモーメントですが、これは微小部分の中心の y 座標が、
\begin{equation} \bar{y} := \frac{y(x) + y(x+\Delta x)}{2} \end{equation}
(1)
なので、
\begin{align*} M_F & = F \times (y(x+\Delta x) - \bar{y}) + F \times (\bar{y} - y(x)) \\ & = F \left(y(x+\Delta x) - y(x)\right) \end{align*}
(2)
となります。

2.2応力のモーメント

さてさて、続いて応力のモーメントです。
まぁこれは beam equation の時と全く同じ議論ができるので、Young 率を E 、断面二次モーメントを I として、
\begin{equation} M_b(x) = EI\frac{\partial^2 y}{\partial x^2} \end{equation}
(3)
です[1]
同じ議論ができることは当該記事を読んでくださいということでw

2.3つり合いを考える

という感じでモーメントが分かったので早速式を立ててみます。
\begin{equation} M_F + M_b(x+\Delta x) - M_b(x) = 0 \end{equation}
(4)
\begin{equation} F \left(y(x+\Delta x) - y(x)\right) + M_b(x+\Delta x) - M_b(x) = 0 \end{equation}
(5)
\begin{equation} F \frac{y(x+\Delta x) - y(x)}{\Delta x} + \frac{M_b(x+\Delta x) - M_b(x)}{\Delta x} = 0 \end{equation}
(6)
となるので、ここらで $\Delta x \rightarrow 0$ として、
\begin{equation} F \frac{\partial y}{\partial x} + \frac{\partial M_b}{\partial x} = 0 \end{equation}
(7)
\begin{equation} \therefore \frac{\partial}{\partial x} \left( EI \frac{\partial^2 y}{\partial x^2} \right) + F \frac{\partial y}{\partial x} = 0 \end{equation}
(8)
となります。
でもまぁ E とか I とか普通は定数ですし、さらに $y=y(x)$ だとすれば、
\begin{equation} EI\frac{d^3y}{dx^3} + F\frac{dy}{dx} = 0 \end{equation}
(9)
となります。 これは振り子の運動方程式とかと一緒の微分方程式ですねw これなら簡単に解けそうです。

[1]添字の「b」は buckling、つまり座屈の「b」です

3境界条件を考えて解く

解けるなら
解いてしまおう
方程式
ということで、境界条件を考えつつ上の微分方程式を解いてしまいましょう。

3.1一般解

まず、(9)式を、
\begin{equation} \frac{d^2 y'}{dx^2} + \frac{F}{EI} y' = 0 \end{equation}
(10)
と書けば、これは振り子の微小振動の運動方程式とおなじですから、この一般解は、
\begin{equation} y' = A \cos\left(\sqrt{\frac{F}{EI}} x + \phi\right) \end{equation}
(11)
一回積分して、
\begin{align*} y & = \sqrt{\frac{F}{EI}} A \sin\left(\sqrt{\frac{F}{EI}} x + \phi\right) + C \\ & = B \sin\left(\sqrt{\frac{F}{EI}} x + \phi\right) + C \\ \end{align*}
(12)
となります。

3.2積分定数を求める

一般解が求まったので、ここからは境界条件を考えて積分定数 $B, C, \phi$ を決めていきましょう!

3.2.1x=0 (固定端)

まず $x=0$ での条件を考えます。 固定端では棒は地面と垂直ですから、
\begin{align*} y'(0) & = 0 \\ \sqrt{\frac{F}{EI}} B \cos\phi & = 0 \\ \therefore \cos \phi & = 0 \end{align*}
(13)
が成り立ちます。 なので、
\begin{equation} \phi = \frac{\pi}{2} \end{equation}
(14)
としてしまいましょう。
また、$x=0$$y=0$ とすれば、
\begin{align*} y(0) & = 0 \\ B \sin\phi + C & = 0 \ (\because \phi=\frac{\pi}{2}\ \text{i.e.}\ \sin\phi=1) \\ B + C & = 0 \\ \therefore B & = -C \end{align*}
(15)
となります。
以上の二つをまとめると、
\begin{equation} y = C\left(1-\cos\sqrt{\frac{F}{EI}}x\right) \end{equation}
(16)
となります。

3.2.2x=L (自由端)

次に $x=L$ での条件を考えます。
棒の端では上に弾性体がないので、この点での応力は 0 になるはずなので、(3)式から、
\begin{align*} M_b(L) & = 0 \\ EIy''(L) & = 0 \\ y''(L) & = 0 \\ \frac{F}{EI} C \cos\sqrt{\frac{F}{EI}}L & = 0 \\ \cos\sqrt{\frac{F}{EI}}L & = 0 \\ \sqrt{\frac{F}{EI}}L & = \left(n + \frac{1}{2}\right) \pi \\ \end{align*}
(17)
となるので、これを F について解くと、
\begin{equation} F = \frac{EI}{L^2}\left(n + \frac{1}{2}\right)^2\pi^2 \end{equation}
(18)
となります。

4吟味

4.1Fは離散的?

上の(18)式を見ると、「えっ! F って離散的な値しか取らないのっ!?」と一瞬驚いてしまいますが、まぁそれは最初の方で曲げが微小だと仮定していた[1]のでこうなるだけで、厳密に方程式を立ててあげればこうならない場合の変形も得ることができます。
じゃあ今までの議論は意味がなかったのかというとそうでもなくて、例えば $n=0$ の時の F の値は、
\begin{equation} F_0 := \frac{\pi^2EI}{4L^2} \end{equation}
(19)
ですが、棒にかかる荷重がこの値に満たない時には棒の座屈は起こらず、逆にこの値に近づいていき $F_0$ と等しくなると棒が曲がった状態が可能になります。 このようにある値を境にして取り得る状態が増えることを状態が分岐する(bifurcation)といいます。 この状態になると真っ直ぐでいるのは不安定なため、外部から少しだけ押したり引いたりするだけ[2]で座屈が起こってしまいます。
そこでこの $F_0$ のことを座屈荷重(buckling load)といいます。 座屈荷重が $F_0$ の棒は、この重さ付近までなら耐えられるけど、超えちゃうと座屈を起こしちゃうよ、という意味になります。
また、今は境界条件を (固定端) + (自由端) としていましたが、そのほかの組み合わせでも座屈荷重は、
\begin{equation} F_0 = C\frac{\pi^2EI}{L^2} \end{equation}
(20)
という形になります。 これを Euler の式といいます。 C は棒の端が固定端なのか、自由端なのか、はたまたピンで固定されているのか、という境界条件に依存する定数です。 この定数のことを端末条件係数といいます。 また(20)式を、
\begin{equation} F_0 = \frac{\pi^2EI}{(KL)^2} \end{equation}
(21)
と書いて K のことを effective length factor[3] といいます。
ちなみに Wikipedia を見ていたらこんなおもしろい写真がありました。
端点の条件による座屈の違い
何となく分かると思いますが、FIXED は固定端、FREE は自由端、PINNED はピンによる固定です。 どれも形は違いますが、サインカーブをしているのが見て取れると思います。
ところで、この座屈荷重を超えて、例えば $F_0$$F_1$ の間の荷重をかけると今度は逆に $F=F_0$ の時よりも安定しそうな感じがしますけど、どうなんでしょうか? あー、でもちょっと曲がっただけでガッとなってガッといって安定化しないのか…。 よく分かりませんね…[4]
で、まぁ順調に座屈しないまま力を加え続けられたとして、$F_1$ にたどり着くとどうなるのでしょうか?
まず、$n=0$ の時は、曲線の式は、
\begin{equation} y = C \left(1 - \cos\left(\frac{\pi}{2}\frac{x}{L}\right) \right) \end{equation}
(22)
ですから、このとき、棒の形は、
座屈時の形 (n=0のとき)
という感じになります。
次に $n=1$ の時の曲線の式は、
\begin{equation} y = C \left(1 - \cos\left(\frac{3\pi}{2}\frac{x}{L}\right) \right) \end{equation}
(23)
なので、棒の形は、
座屈時の形 (n=1のとき)
という感じになります。
これより、力を加えていき n が増えるにつれて、くねくねの多い形に変形しやすくなる、というのが分かるでしょう。

4.2変形量は?

今回は棒の変形を表す式として、
\begin{equation} y = C\left(1-\cos\sqrt{\frac{F}{EI}}x\right) \end{equation}
(24)
というのを求めましたが、まだ未知定数が残っていますよね? C です、C 。 C の値がよく分かっていません。
えーと、これを考える前に C の値について一言注意しておきたいことがあります。
$x=L$ での変形量は $y(L)$ で求められますが、
\begin{equation} y(L) = C\left(1-\cos\sqrt{\frac{F}{EI}}L\right) \end{equation}
(25)
この $\cos$ の値は自由端での境界条件の議論の中で 0 だと分かっているので、結局 $x=L$ での変形量は、
\begin{equation} y(L) = C \end{equation}
(26)
となります。 つまり、C は棒の端での横方向の変形量を表している、ということが分かります。 そこでこれを改めて $H$ と書いておきましょう。
\begin{equation} y = H\left(1-\cos\sqrt{\frac{F}{EI}}x\right) \end{equation}
(27)
それで、まぁ、文字をいくら置き換えたところで分からないものは分からないので H を決めたいのですが、これを決めようとしていくら境界条件を考えても、一向に分かる気配がありません。 なぜでしょうか?
それを考えるには(27)式の元となった微分方程式、
\begin{equation} EI\frac{d^3y}{dx^3} + F\frac{dy}{dx} = 0 \end{equation}
(28)
を見ると答えが見えてきます。
この方程式って線形ですよね?
ということはつまり、
\begin{equation} y = \eta(x) \end{equation}
(29)
がこの微分方程式の解だ!と分かると、任意の定数 C に対して、
\begin{equation} y = C \eta(x) \end{equation}
(30)
もこの微分方程式の解となってしまいます。
つまり、この微分方程式には定数倍の不定性があるということです。 この不定性は通常、初期条件や境界条件を考えることで解消できるのですが、この場合には明らかに、二点の y 座標が分からないと解決はできません。 固定端の位置は分かるというか、まぁ定義みたいなもんなので一つはいいとして、もう一カ所座標が分かるかというと、ちょっと無理ですよね…。 なので今回の理論ではどれだけ曲がるのか、曲がった量はどのくらいなのか、というのを知ることは不可能なんです!
なぜこんな中途半端な結論しか出せないのかというと、それは途中で曲がりが微小だ、という近似を用いたからに他なりません。 近似というのは一般に何か情報を捨てているので、ここでその近似のツケが回ってきたというか、まぁそんな感じなんだと思います。
しかし勿論、近似を使わずに方程式を書くことができればそんな不定性なんて出てきません。 その近似を使わないで棒の曲げ変形を表す理論として Euler のエラスティカ(elastica)理論というものがあります。
次の記事ではそれを紹介したいと思います。

[1]「途中の議論でそんな仮定使ってないじゃないかっ!」と思った人がいるかもしれません。じゃあどこで使っていたのかというと、$M_b$ のあの式を求める途中で使っていたのでした
[2]このことを外部攪乱(がいぶかくらん)などといいます。別に意図的に揺らさなくても、少し床が揺れたり風が吹いたりというのでも座屈が起こる可能性があります。なんか過冷却状態の水に声をかける(空気の振動を伝える)と一瞬で凍り付く、という話を聞いたことがありますが、そんな感じでしょうか
[3]Wikipedia ではコッチの表記でかかれていました。日本語にしたら「有効長さ係数」とかでしょうか?
[4]詳しい人、教えて!