$ \DeclareMathOperator{\arccosh}{arccosh} \DeclareMathOperator{\arcsinh}{arcsinh} \DeclareMathOperator{\rank}{rank} \DeclareMathOperator{\rot}{rot} \DeclareMathOperator{\grad}{grad} \DeclareMathOperator{\diver}{div} $

面積力(応力)と体積力

力学は力の学問ですから、物体に働く力が分からないと運動の解析なんてできません。
連続体に働く力として、体積力面積力という二つの力を考えることができます。 今回はこの二つの力について解説していきます。
あ、応力テンソルについては、テンソルを勉強していないと分からないかもしれませんよ〜。

1体積力

物質の体積や質量に比例する力を体積力(body force)といいます。 身近な例としては、例えば重力とか電磁気力などがあげられます。
重力は、
\begin{equation} (\rho dV) \bm{g} \end{equation}
(1)
とかでしょうか。
領域 $dV$ 内に働く体積力を一般に、
\begin{equation} \bm{K} \rho dV \end{equation}
(2)
と書きます。 $\bm{K}$ は単位質量あたりに働く力を表します。

2面積力

連続体内部を考えると、連続体の構成粒子同士が触れあうことによって生じる力があります。 これは接触することで伝わる力なので、その力は表面積に比例するはずです。
このように接触面の面積に比例する力を面積力(surface force)といいます。 いわゆる圧力[1]などは面積力です。
この面積力という、連続体同士が及ぼす力が存在するために質点系の力学などでは取り扱えない、複雑でおもしろい現象が発生するわけです。

2.1応力

面積要素 $dS$ に働く面積力は、
\begin{equation} \bm{p} dS \end{equation}
(3)
と書けます。 $\bm{p}$ は面積要素 $dS$ にかかる、単位面積あたりの力を表しており、応力(stress)といいます。
応力は面積要素の向きにも依存するので注意が必要です。
\begin{equation} \bm{p} = \bm{p}(\bm{n}) \end{equation}
(4)
また、作用・反作用の法則から、同じ場所では、
\begin{equation} \bm{p}(-\bm{n}) = -\bm{p}(\bm{n}) \end{equation}
(5)
が成り立ちます。
反対方向を向く面に働く応力
図にするとこんな感じです。 左下の矢印二本は面の奥方向に向かっている矢印です[2]

2.2応力の分解

次に、応力は、基本的な応力の線形結合で表せること、つまり、
\begin{equation} \bm{p}(\bm{n}) = \sum_i n_i \bm{p}(\bm{e}_i) \end{equation}
(6)
となることを示します。
まず、下図のような四面体を考えます。
応力の線形性の解説用の図
軸に垂直な面に働く応力は、この四面体の面の向きが負の方向を向いているのでマイナスがつくことに注意してください。
この四面体の運動方程式を考ると、
\begin{equation} (\rho dV) \ddot{\bm{x}} = \rho \bm{K} dV + \left( \bm{p}(\bm{n})dS + \sum_i \bm{p}(-\bm{e}_i)dS_i \right) \end{equation}
(7)
となりますが、この四面体をどんどん小さくしていったときのことを考えると、左辺や右辺第一項の $dV$ は 3 次の微小量になります。 一方、右辺第二項以降は二次の微小量になるので、四面体を小さくしていった極限においては右辺第二項以降は $0$ にならなければなりません。
従って、
\begin{equation} \bm{p}(\bm{n})dS + \sum_i \bm{p}(-\bm{e}_i)dS_i = 0 \end{equation}
(8)
となります。
ところで、
\begin{eqnarray*} dS_i & = & (\bm{n} \cdot \bm{e}_i) dS \\ & = & n_i dS \end{eqnarray*}
(9)
なので、(8)式は、
\begin{eqnarray*} \bm{p}(\bm{n})dS + \sum_i \bm{p}(-\bm{e}_i)dS_i & = & 0 \\ \bm{p}(\bm{n})dS - \sum_i \bm{p}(\bm{e}_i) n_i dS & = & 0 \\ \left( \bm{p}(\bm{n}) - \sum_i n_i \bm{p}(\bm{e}_i) \right) dS & = & 0 \end{eqnarray*}
(10)
\begin{equation} \therefore \bm{p}(\bm{n}) = \sum_i n_i \bm{p}(\bm{e}_i) \end{equation}
(11)
となるので、証明は完了しました。

2.3応力テンソル

さて、上で「任意の方向を向く面に働く応力は、$\bm{p}(\bm{e}_i)$ の線形結合で表せる」ということを示したので、$\bm{p}(\bm{e}_i)$ が分かれば、どの方向を向いているの面の応力もすべて分かる、ということになります。
$\bm{p}(\bm{e}_i)$ といちいち書くのは面倒なので、
\begin{equation} \bm{p}(\bm{e}_i) = \left(\begin{matrix} \sigma^{1}_{\ i} \\ \sigma^{2}_{\ i} \\ \sigma^{3}_{\ i} \end{matrix}\right) \end{equation}
(12)
とおいてしまいましょう。 $\sigma^i_{\ j}$応力テンソル(stress tensor)といいます。
$\sigma^i_{\ j}$$j$ 方向の面に働く応力の、 $i$ 方向成分
を表します。 どっちがどっちなんだかこんがらがりやすいので注意してください。
この応力テンソルを使うと、 $n^i$ 方向の応力 $p^i$ は、
\begin{equation} p^i = \sigma^i_{\ j} n^j \end{equation}
(13)
と表せます。 $j$ については Einstein の縮約規約が適用されているものとします[3]

[1]水圧、気圧 etc.
[2]見にくくてすみませんw
[3]以下同じ

3つり合い

連続体に働く力についての考察を行ったので、ここで連続体のつり合いについて考えてみましょう。
ここで連続体がつり合っているというのは、連続体のどの部分に対しても力とトルク(力のモーメント)の合計が 0 になっている状態としておきます[1]

3.1つり合い方程式

まずは力の合計が 0 だという条件を使います。
連続体のある領域 $V$ を考えます。 この領域に働く力の合計は、
\begin{equation} \int_{S=\partial V} {\sigma^i}_j n^j dS + \int_V \rho K^i dV \end{equation}
(14)
面積分と体積分の足し算では相性が悪いので、こういう場合の救世主(?) Gauss の発散定理(Gauss's divergence theorem)を使いましょう。 ベクトル形式の発散定理は、
\begin{equation} \int_S (\bm{a} \cdot \bm{n}) dS = \int_V (\diver \bm{a}) dV \end{equation}
(15)
でしたので、これをテンソルで表すと、
\begin{equation} \int_S a^i n_i dS = \int_V \frac{\partial a^i}{\partial x^i} dV \end{equation}
(16)
となります。 ちなみに右辺の偏微分を、
\begin{equation} a_{i,i} := \frac{\partial a_i}{\partial x_i} \end{equation}
(17)
と書くこともあるようです。 さて、本題に戻ると、発散定理を使って(14)式は、
\begin{equation} \int_V \frac{\partial {\sigma^i}_j}{\partial x_j} dV + \int_V \rho K^i dV = \int_V \left( \frac{\partial {\sigma^i}_j}{\partial x_j} + \rho K^i \right) dV = 0 \end{equation}
(18)
となります。 いま、領域 $V$ は勝手にとれるので、積分の中身も 0 にならなければなりません。
\begin{equation} \frac{\partial {\sigma^i}_j}{\partial x_j} + \rho K^i = 0 \end{equation}
(19)
これをつり合い方程式(equilibrium equations)といいます。

3.2応力の対称性

次にトルクの合計が 0 になるという条件を考えましょう。
まず領域 $V$ に働くトルクは、
\begin{equation} \int_S \left( \bm{r} \times ({\sigma^i}_j n^j) \right) dS + \int_V \bm{r} \times \bm{K} dV = 0 \end{equation}
(20)
となります。 ベクトルとテンソルが混じって見にくいですがw すべてテンソル表記にしてしまいましょう。 なお、ここでは座標系は直交座標系をとることとします。 添字もすべて下付きにしてしまいます。
外積はテンソルで、
\begin{equation} \bm{a} \times \bm{b} = \epsilon_{ijk} a_j b_k \end{equation}
(21)
とあらわせます。 ここで $\epsilon_{ijk}$Levi-Civita(レヴィ・チヴィタ) の記号といい、
\begin{equation} \epsilon_{ijk} = \begin{cases} +1 & \text{if}\ (i, j, k) = (1, 2, 3) \text{or} (2, 3, 1) \text{or} (3, 1, 2) \\ -1 & \text{if}\ (i, j, k) = (1, 3, 2) \text{or} (2, 1, 3) \text{or} (3, 2, 1) \\ 0 & \text{otherwise} \end{cases} \end{equation}
(22)
となる三階のテンソルです。 +1 になる $(i, j, k)$$(1, 2, 3)$ の偶置換、つまり二つの数字を入れ替える操作[2]を偶数回行うことで得られる並びとなっています。 同様に -1 になる $(i, j, k)$$(1, 2, 3)$ の奇置換、つまり二つの数字を入れ替える操作を奇数回行うことで得られる並びとなっています。
これを用いると、(20)式は、
\begin{equation} \int_S (\epsilon_{ijk} x_j \sigma_{kl} n_l) dS + \int_V (\epsilon_{ijk} x_j K_k) dV = 0 \end{equation}
(23)
第一項は、発散定理から、
\begin{eqnarray*} \int_S (\epsilon_{ijk} x_j \sigma_{kl} n_l) dS & = & \int_V \frac{\partial}{\partial x_l} (\epsilon_{ijk} x_j \sigma_{kl}) dV \\ & = & \int_V \epsilon_{ijk} \left( \sigma_{kl} \frac{\partial x_j}{\partial x_l} + x_j \frac{\partial \sigma_{kl}}{\partial x_l} \right) dV \\ & = & \int_V \epsilon_{ijk} \left( \sigma_{kl} \delta_{jl} + x_j \frac{\partial \sigma_{kl}}{\partial x_l} \right) dV \\ \end{eqnarray*}
(24)
となるので、(23)式は結局、
\begin{equation} \int_V \epsilon_{ijk} \left( \sigma_{kl} \delta_{jl} + x_j \frac{\partial \sigma_{kl}}{\partial x_l} \right) dV + \int_V (\epsilon_{ijk} x_j K_k) dV = 0 \end{equation}
(25)
\begin{equation} \int_V \epsilon_{ijk} \left( \sigma_{kl} \delta_{jl} + x_j \left( \frac{\partial \sigma_{kl}}{\partial x_l} + K_k \right) \right) dV = 0 \end{equation}
(26)
となりますが、つり合いの方程式から積分の中身の第二項は 0 だと分かるので、最終的に、
\begin{equation} \int_V (\epsilon_{ijk} \sigma_{kl} \delta_{jl}) dV = 0 \end{equation}
(27)
を得ます。 積分範囲の領域 $V$ は適当に選べるので、積分の中身は 0 でなければなりません。
\begin{equation} \epsilon_{ijk} \sigma_{kl} \delta_{jl} = 0 \end{equation}
(28)
上の式は 3 つの等式を表しています。 それらを縮約をせずに書いてみると、
\begin{equation} \begin{cases} \sigma_{32} - \sigma_{23} = 0 & (i = 1) \\ \sigma_{13} - \sigma_{31} = 0 & (i = 2) \\ \sigma_{21} - \sigma_{12} = 0 & (i = 3) \\ \end{cases} \end{equation}
(29)
\begin{equation} \text{i.e.} \begin{cases} \sigma_{23} = \sigma_{32} \\ \sigma_{31} = \sigma_{13} \\ \sigma_{12} = \sigma_{21} \\ \end{cases} \end{equation}
(30)
となります。 これはつまり、応力テンソルが対称テンソルであることを表しています。 つまり、
\begin{equation} \sigma_{ij} = \sigma_{ji} \end{equation}
(31)
です。
なお、対称テンソルは座標変換を行っても対称テンソルなので、斜交座標系でもこれは成り立ちます[3]

さて、力のモーメントのつり合いから応力の対称性を導きましたが、実はこれ、逆も言えるんです! 例えば 3 軸方向の力のモーメントは、
\begin{equation} (\sigma_{21} \Delta x_2 \Delta x_3) \Delta x_1 - (\sigma_{12} \Delta x_1 \Delta x_3) \Delta x_2 = (\sigma_{21} - \sigma_{12}) \Delta V \end{equation}
(32)
となるので、力のモーメントが 0 なら応力テンソルは対称テンソルですし、逆に応力テンソルが対称テンソルならば力のモーメントも 0 になります。
詳しくはちょっとよく分からない(!!)[4]のですが、実はこの状況はほとんどの場合に成り立つ[5]らしくて、常に応力テンソルは対称テンソルだと勘違いしてしまうような書き方をしている教科書が多くあります。 ですが、必ず対称テンソルになるわけではなくて、そうならない場合もあるということを頭の片隅においておいてください。
実際、英語版 Wikipediaには、
However, in the presence of couple-stresses, i.e. moments per unit volume, the stress tensor is non-symmetric. This also is the case when the Knudsen number is close to one, $K_{n}\rightarrow 1\,\!$, or the continuum is a Non-Newtonian fluid, which can lead to rotationally non-invariant fluids, such as polymers.
とあります。 訳してみた[6]
couple stress[7]、すなわち単位体積あたりのモーメントが存在するならば、応力テンソルは非対称になる。 クヌーセン数が 1 に近い場合 ($K_n \rightarrow 1$) や、連続体が非ニュートン流体であり、回転対称性のない場合、例えばポリマーなどの連続体では応力テンソルは非対称になってしまう。
うーん、あんまり気にしなくてもいいのかなぁ…?

[1]このような状況を考えれば、連続体は「動かない」ことは、まぁ剛体の力学をやっていれば何となく頷けますよね?
[2]互換(ごかん)という
[3]このサイトではなぜか上付きと下付きの添字を区別していますが、あんまし斜交座標系で考えるメリット無いよね…。どの教科書も全部下付きで書いてあるし…
[4]教えて、エロい人!
[5]いや、もちろんつり合っている時にはいつも成り立つけど
[6]間違ってても怒らないこと
[7]stress = 応力