$ \DeclareMathOperator{\arccosh}{arccosh} \DeclareMathOperator{\arcsinh}{arcsinh} \DeclareMathOperator{\rank}{rank} \DeclareMathOperator{\rot}{rot} \DeclareMathOperator{\grad}{grad} \DeclareMathOperator{\diver}{div} $

最速降下線

1最速降下線問題

1.1最速降下線問題とは

最速降下線問題とは、
ある点からある点へと滑らかな曲線を転がり落ちるとき、 転がり落ちるまでの時間が最短になるには曲線はどのような形のときか?
というものです。
どのような形になると思いますか? 直線? 放物線? 双曲線?
いいえ、違います。実はサイクロイド [1] になるんです!

1.2歴史的背景

この問題はベルヌーイが1696年に提起したとされています。 この問題を聞いた、かの有名なニュートンは仕事で疲れていたにもかかわらず、 一晩で解いてしまったという逸話が残されています。
はい、どうでもいいですね。

[1]サイクロイドとは「円がある規則にしたがって回転するときの円上の定点が描く軌跡として得られる平面曲線の総称である(Wikipedia)」で、この場合は直線上を円が転がるときに円の一点が描く曲線になります。

2微分方程式を立てる

2.1場面設定

議論をするために変数などを設定していきます。
座標は、スタート地点を原点とし、水平方向に$x$軸、垂直方向に$y$軸を設定します。 各軸の正方向は、ゴール地点に向かう向きとします[1]
またゴール地点への水平距離を$d$、垂直距離(つまり高さ)を$h$とします。
さらに坂道の形は函数$f$で与えられているものとします。

2.2到着時刻を求める

ゴール地点に到着する時刻を$T$とすると、
\begin{equation} T = \int^{x=d}_{x=0} \frac{dl}{v} \end{equation}
(1)
です。$dl$は曲線の微小な長さであり、$f$を用いて、
\begin{equation} dl = \sqrt{dx^2 + dy^2} = \sqrt{1 + \left(\frac{df}{dx}\right)^2} dx \end{equation}
(2)
で、vは玉の速度で、
\begin{eqnarray*} \frac{1}{2} m v(x)^2 & = & mgf(x) \\ v(x) & = & \sqrt{2gf(x)} \end{eqnarray*}
(3)
なので、この(2)式と(3)式を(1)式に代入して、
\begin{equation} T = \int^d_0 \sqrt{\frac{1+(f')^2}{2gf}} dx \end{equation}
(4)
を得ます。

2.3変分法

さて、$f$(や$f'$)の形がいろいろ変化したときに、$T$が最小となるような$f$を見つければよいのですが、 どうすれば良いか分かりますか?
正解は、「$T$を変数$f$$f'$の函数[2]だと思って極値を求める」です。 なんか自分で閃くのはしんどいですが、言われてみるとすごく当たり前の考え方ですね。
ちなみにこの考え方を、変分法と言うらしいです。 また$T$は厳密に言うと函数とは違うので、汎函数などと言ったりするらしいです。 詳しくは変分法の本なり解説ページなりをご覧ください。
なお、境界条件として、
\begin{equation} \delta f(d) = \delta f(0) = 0 \end{equation}
(5)
としておきます。

2.4微分方程式を求める

さて、最速降下線問題は見方を変えればただの極値問題だと分かりました。 これさえ分かれば微分方程式を立てるのは簡単です。
求めたい$f$は何度も言うように、$T$の極値を与えるものですから、この$f$においては、 少し($\delta f$ or $\delta f'$)だけ$f$$f'$を変化させても、$T$の変化量($\delta T$)は二次の微小量となるはずです。 従って、
\begin{equation} F(f, f') = F(x, f, f') = \sqrt{\frac{1+(f')^2}{2gf}} \end{equation}
(6)
とすれば、
\begin{equation} \delta T = \int^d_0 \left( F(f+\delta f, f'+\delta f') - f(f, f') \right) dx = 0 \end{equation}
(7)
となるはずです。 $\delta f, \delta f'$が微小量ですから、chain ruleが使えて、
\begin{equation} \delta T = \int^d_0 \left( \frac{\partial F}{\partial f}\delta f + \frac{\partial F}{\partial f'}\delta f' \right) dx \end{equation}
(8)
となります。 さて、(8)式の$\delta f$を括り出すために(8)式の右辺第二項を部分積分してあげます。
\begin{eqnarray*} && \int^d_0 \frac{\partial F}{\partial f'} \delta f' dx \\ & = & \int^d_0 \frac{\partial F}{\partial f'} \delta\left(\frac{df}{dx}\right) dx \\ & = & \int^d_0 \frac{\partial F}{\partial f'} \frac{d}{dx} \left(\delta f\right) dx \\ & = & \left[ \frac{\partial F}{\partial f'} \delta f \right]^d_0 - \int^d_0 \frac{d}{dx}\left( \frac{\partial F}{\partial f'} \right) \delta f dx \\ & = & - \int^d_0 \frac{d}{dx}\left( \frac{\partial F}{\partial f'} \right) \delta f dx \end{eqnarray*}
(9)
最後では(5)式の境界条件を用いました。 最後にこの結果を(8)式に代入してあげると、
\begin{eqnarray*} \delta T & = & \int^d_0 \left( \frac{\partial F}{\partial f}\delta f - \frac{d}{dx}\left( \frac{\partial F}{\partial f'} \right) \delta f \right) dx \\ & = & \int^d_0 \left( \frac{\partial F}{\partial f} - \frac{d}{dx}\left( \frac{\partial F}{\partial f'} \right) \right) \delta f \ dx \\ \end{eqnarray*}
(10)
函数$f$の形をどう変えても、変化量$\delta f$が微小ならばこの値は恒等的に0になるのでした。 このことから、積分の中身も恒等的に0になる、すなわち、
\begin{equation} \frac{\partial F}{\partial f} - \frac{d}{dx} \left( \frac{\partial F}{\partial f'} \right) = 0 \end{equation}
(11)
が成り立ちます。 あとは$F$に(6)式を代入して頑張って計算すれば微分方程式が出てきます。 頑張ってね。
頑張って計算して整理したら、
\begin{equation} f'^2 + 2ff'' + 1 = 0 \end{equation}
(12)
が得られるはずです。

[1]下がy軸正方向になる。
[2]つまり、$T=T(f, f')$

3微分方程式を解く

3.1一般解を求める

解きたいわけですが、あのままだとちょっと解けない気しかしませんね。 でも実は(12)式の両辺に$f'$をかけると、左辺第一項と第二項はまとめることができて、
\begin{equation} \frac{d}{dx} ( ff'^2 + f ) = 0 \end{equation}
(13)
とかけます[1]。 結局、
\begin{eqnarray*} f(f'^2 + f) & = & C \hspace{1em} (\text{C : constant}) \\ f' & = & \sqrt{\frac{C-f}{f}} \end{eqnarray*}
(14)
となるので、これなら変数分離形ですし、何かいけそうな気がします。
\begin{equation} x = \int \sqrt{\frac{f}{C-f}}\ df + C' \hspace{1em} (\text{C' : constant}) \end{equation}
(15)
積分部分は、
\begin{equation} f = C \sin^2 \theta \end{equation}
(16)
と変数変換するのがうまくて、
\begin{eqnarray*} \int \sqrt{\frac{f}{C-f}}\ df & = & \int 2C \sin^2 \theta d\theta \\ & = & \int C (1 - \cos 2\theta) d\theta \\ & = & C \left( \theta - \frac{1}{2} \sin 2\theta \right) \end{eqnarray*}
(17)
なのでけっきょく、
\begin{eqnarray*} x & = & C \left( \theta - \frac{1}{2} \sin 2\theta \right) + C' \\ f & = & C \left( \frac{1 - \cos(2\theta)}{2} \right) \end{eqnarray*}
(18)
と求めることができました。

3.2特殊解を求める

まず、原点をスタート地点としたことから、$f(x=0) = 0$なので、
\begin{eqnarray*} 0 & = & C \left( \frac{1 - \cos(2\theta)}{2} \right) \\ \therefore \theta & = & 0 \end{eqnarray*}
(19)
だから、
\begin{eqnarray*} 0 & = & C \left( 0 - \frac{1}{2} \sin 0 \right) + C' \\ \therefore C' & = & 0 \end{eqnarray*}
(20)
$\frac{C}{2}$$C$$2\theta$$\theta$と改めておくことにより、
\begin{equation} \left( \begin{matrix} x \\ y \end{matrix} \right) = C \left( \begin{matrix} \theta - \sin \theta \\ 1 - \cos \theta \end{matrix} \right) \end{equation}
(21)
を得ます。
あと$h$$d$ですが…これを初期条件として加えても$C$を計算できない気がするのでやめます。

[1]微分してみてね。