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Hamilton-Jacobi の方程式

正準変換の母函数を「うまく」とることができれば、正準運動方程式はさらにきれいな形で書き下せます。

1一般の場合

1.1「うまい」変換とは?

「うまい」正準変換とはどういうものかというと、それはズバリ、
\begin{equation} K \equiv 0 \end{equation}
(1)
となる変換です。 どうしてうまいかについては、もう少し読み進めると分かる…かもしれません。
もしこのような変換をするような母函数をとることができたとすれば、
\begin{eqnarray*} \dot{P}_i & = & -\frac{\partial K}{\partial q_i} = 0 \\ \dot{Q}_i & = & \frac{\partial K}{\partial p_i} = 0 \end{eqnarray*}
(2)
より、
\begin{eqnarray*} P_i & \equiv & \alpha_i \ (\text{const.}) \\ Q_i & \equiv & \beta_i \ (\text{const.}) \end{eqnarray*}
(3)
となります。 この $\alpha, \beta$ は正準運動方程式や、正準変換の帰結である、(@ref{CanonTrans})式から求めることができない、任意定数です。 これらの値は初期条件から求めなければなりません。
このような正準変換を与える母函数 $S$ を、Hamilton の主函数(Hamilton's principal function) といいます。 $S$ の引数は、新旧両方の変数を含んでいれば何でもよいのですが、
\begin{equation} S = S(q, P, t) \end{equation}
(4)
という形だとしてしまえば、
\begin{eqnarray*} p_i & = & \frac{\partial S}{\partial q_i} \\ Q_i & = & \frac{\partial S}{\partial P_i} \\ K & = & H + \frac{\partial S}{\partial t} \end{eqnarray*}
(5)
と、他の変換と異なり、余計な負号がつかないのでやりやすいです。 なのでこの形だと思って議論していきます[1]

1.2Hamilton-Jacobi の方程式

(5)式の三番目の式は、$K \equiv 0$ であることから、
\begin{equation} H(q, p, t) + \frac{\partial S}{\partial t}(q, P, t) = 0 \end{equation}
(6)
です。
ここでまず $P_i \equiv \alpha_i \ (const.)$ であることから、
\begin{equation} S = S(q, \alpha, t) \end{equation}
(7)
と、$S$ は実質 $q, t$ の函数となります[2]
さらに Hamiltonian $H$ の引数 $p$ は、(5)式の一番目の式から、
\begin{equation} p_i = \frac{\partial S}{\partial q_i} \end{equation}
(8)
と表せます。
上の二個の式を(6)式に適用すると結局この方程式は、
\begin{equation} H\left(q, \frac{\partial S}{\partial q}, t\right) + \frac{\partial S}{\partial t}(q, \alpha, t) = 0 \end{equation}
(9)
と表すことができます。 この偏微分方程式は $S$ 以外に未知変数や未知函数を含まないので、頑張れば(母函数$S$について)解くことができる…かもしれません。 この偏微分方程式のことを、Hamilton-Jacobi の方程式(Hamilton-Jacobi equation; 以下HJE) といいます。

1.3軌道を求める

もし HJE(9)式が解けて、$S$ の形が分かったとしても、それだけでは何も嬉しくありません。 私たちが知りたいのは軌道 $(q, p)$ なんです!
そこで「うまい」変換を与える母函数 $S$ が求まったときに軌道 $(q, p)$ を計算する方法を考えます。
(5)式の第二式から、
\begin{equation} \frac{\partial S}{\partial \alpha_i}(q, \alpha, t) = \beta_i \ (\text{const.}) \end{equation}
(10)
という関係が表れるので、これを連立して $q$ に関して解いてあげれば軌道 $q$ は求まります。
そして $q$ が求まったら、(5)式の第一式から、
\begin{equation} p_i = \frac{\partial S}{\partial q_i}(q, \alpha, t) \end{equation}
(11)
という関係を使って $p$ を求めることができます。

[1]もちろん、$Q$$p$を引数にとっても OK です
[2]$\alpha$ は任意定数なので、これを引数として持つ $S$$N$ 個の自由度をもつ函数として求まるはずです

2Hamiltonian が時間に陽に依存しない場合

と、このように正準方程式よりも簡単な偏微分方程式が得られた訳ですけど、 Hamiltonian が時間に陽に依存しない場合にはさらに簡単な式になることが分かります。

2.1特別なことじゃない

以下では Hamiltonian が時間に陽に依存しないことを仮定して議論を進めるわけですが、 その前に Hamiltonian が時間に陽に依存しないことがそんなに特殊なことではないことを説明しておきます。
Hamiltonian の定義は、一般化座標 $q$ に対して、
\begin{equation} H := p_i\dot{q}_i - L \end{equation}
(12)
Lagrangian の定義は、
\begin{equation} L := T - V \end{equation}
(13)
でした。 ただし $T$ は運動エネルギー、 $V$ はポテンシャルエネルギーです。
運動エネルギー $T$ は一般化速度 $\dot{q}$ のみで表せるので、 $H$ が時間に陽に依存するためには、 ポテンシャルエネルギー $V$ が時間に陽に依存する必要があります。
でもそれって例えば時間変化する電場がかかっているとか、せいぜいそのくらいです[1]
なので、まぁ、そんなに起こらないことだといえるでしょう[2]

2.2Hamiltonian は実は定数

さて、 Hamiltonian $H$ が時間に陽に依存しない場合、実はそもそも Hamiltonian は時間変化しない定数だということが言えてしまいます。
\begin{equation} \frac{dH}{dt} = 0 \end{equation}
(14)
このとき、ある定数 $E$ が存在して、
\begin{equation} H\left(q(t), \frac{\partial S}{\partial q}(q,\alpha,t)\right) \equiv E \ (\text{const.}) \end{equation}
(15)
となります。

2.2.1証明

証明は至って簡単です。
\begin{eqnarray*} \frac{dH}{dt} & = & \frac{\partial H}{\partial q_i}\dot{q}_i + \frac{\partial H}{\partial p_i}\dot{p}_i + \frac{\partial H}{\partial t} \\ & = & -\dot{p}_i\dot{q}_i + \dot{q}_i\dot{p}_i + \frac{\partial H}{\partial t} \\ & = & \frac{\partial H}{\partial t} \end{eqnarray*}
(16)
こんだけ。 なお、一行目から二行目への変形は正準方程式です。
いま、 $\frac{\partial H}{\partial t}=0$ を仮定しているので、 $\frac{dH}{dt}$$0$ になります。 従って $H$ は時間に寄らないある定数になります。

2.2.2実は H はエネルギー

「実は」を多用しすぎな気がする今日この頃ですが、実は H は系の全エネルギーです。
なぜなら、座標が普通の直交座標だとすると、
\begin{eqnarray*} H & = & m\dot{x} \cdot x - L \\ & = & m\dot{x}x - \left(\frac{1}{2}m\dot{x}^2 - V\right) \\ & = & \frac{1}{2}m\dot{x}^2 + V \\ & = & T + V \end{eqnarray*}
(17)
となるからです。
つまり、 Hamiltonian が時間に陽に依存しないならば、系の全力学的エネルギーは保存する と言えます。

2.3変数分離

上の議論から、 HJE(9)式は、
\begin{equation} \frac{\partial S}{\partial t}(q, \alpha, t) = -E \end{equation}
(18)
と書くことができます。
従って母函数 $S$ は、
\begin{equation} S(q, \alpha, t) = -Et + W(q, \alpha) \end{equation}
(19)
の形をしていなければならないことが分かります。 この $W$ を、 Hamilton の特性函数(Hamilton's characteristic function) といいます。
逆にこれを HJE(9)式に代入することで、 HJE は、
\begin{eqnarray*} H\left(q, \frac{\partial W}{\partial q}(q, \alpha)\right) & = & E \\ S(q, \alpha, t) & = & W(q, \alpha) - Et \end{eqnarray*}
(20)
の二つの方程式を合わせたものと同等であることが分かります。
実質的に私たちが解かなければいけないのは、一番目の式です。 元の HJE が $q, t$ を含んでいたのに対し、この式は $q$ しか含まないので、より簡単な偏微分方程式になっています。
この偏微分方程式、
\begin{equation} H\left(q, \frac{\partial W}{\partial q}(q, \alpha)\right) = E \end{equation}
(21)
のことも、 (時間を含まない)Hamilton-Jacobi の方程式 といったりします。

[1]他に思いつかない(ぉ
[2]「だから何?」とか言わないこと