$ \DeclareMathOperator{\arccosh}{arccosh} \DeclareMathOperator{\arcsinh}{arcsinh} \DeclareMathOperator{\rank}{rank} \DeclareMathOperator{\rot}{rot} \DeclareMathOperator{\grad}{grad} \DeclareMathOperator{\diver}{div} $

チャージポンプ

この記事では、「チャージポンプ」と呼ばれる、コンデンサを主要部品とした昇圧専用の DC/DC コンバータを紹介します。 基本的な動作原理を説明した後、様々な理論計算を行い、 最後に実際にチャージポンプモジュールを作成し計算結果と比較する、という構成をとっています。
一章「基本原理と回路」は電子回路の知識があまりなくとも理解できる内容だと思います。 二章「理論性能評価」は使っている電子回路の知識は高校物理で習う程度のものですが、 高校生ぐらいの方にはちょっと厳しいかもしれません。 三章「実験」は大したことをやっていない/書いていないので、読み進めるのに疲れたら気楽に眺めて頂けると幸いです。

1基本原理と回路

1.1基礎知識

ここでは「DC/DC コンバータ」「チャージポンプ」とは一体何か?ということを、 実際の使用例を交えながら簡単に説明します。
「そんなことより早く動作原理を知りたい!」「実用の話とか興味ない!」といった方は読み飛ばして構いません。

私たちの身の回りには数多くの電子機器が使われていますが、 どれをみても専用のバッテリーパックや AC アダプタが付属しており、 適当に電池をつないであげれば勝手に動いてくれる、というものではありません。 どの電子機器も適切な電圧が決まっていて、その電圧と合うようにバッテリーを選ぶか、 その電圧に合うようにコンセントの電圧を変換する必要があるからです。
例えばコンセントに携帯電話をつないで充電する場合には入力電圧は交流 100V、 モバイルバッテリーで充電する場合には入力電圧はリチウムイオン電池の電圧 3.6V (程度) ですが、 携帯電話側には 5V の直流電流[1]を出力しなければいけません。 こういった場合には、入力電圧と出力電圧が異なるために電圧値を変換する必要があります。
そこでコンセントの場合には一旦 141V[2]の直流に直したもの[3]を 5V の直流に降圧する、 モバイルバッテリーの場合には 3.6V の直流電圧を 5V に昇圧する、ということをしています。 このように入力と出力が両者とも直流である電圧変換装置のことを「DC/DC コンバータ」といいます。
DC/DC コンバータには主要部品としてコイルを用いるタイプと、コンデンサを用いるタイプがあります。 本記事で紹介する「チャージポンプ」は後者のコンデンサを用いるタイプです[4]。 どちらもそれぞれに利点も欠点もありますが、 コンデンサを用いるタイプでは大きな電流を取り出すことが難しいという(いちじる)しい欠点がありますので、 一般的にはコイルを用いた DC/DC コンバータの方がよく使われているようです。
しかしながらコイルを用いるタイプでは①コイル自身の大きさによりデカくなりがち、 ②コイルにより発生する磁場のために周囲にノイズを撒き散らす、 などの欠点があるため、コンデンサを用いるタイプであるチャージポンプの活躍する場面もたくさんあります。
例えば携帯電話では液晶ディスプレイや LED を駆動するのにバッテリーの電圧よりも高い電圧が必要になることがあります。 携帯電話にコイルを用いた昇圧回路をのせてしまっては、コイルがかさばるために分厚い携帯電話が出来あがってしまいますので、 コンデンサを用いたチャージポンプ方式の DC/DC コンバータが用いられているようです。 実際、例えば MAX1578/MAX1579 のような製品が発売されています。

1.2基本的なアイデア

チャージポンプの基本的なアイデアは、充電したコンデンサを逆向きにして電源に直列につなぐと電源の倍の電圧が得られる、 ということに基づきます。
チャージポンプの基本的なアイデア
図 1 - チャージポンプの基本的なアイデア。 ただし図中「+」は入力電圧 $V_\text{CC}$、「-」は $0 \text{V}$ を表す。 以下同様であるとする
言われてみれば非常に単純な仕組みですね。 しかしながら、実際の回路ではコンデンサをいちいち付け替えることなんてできませんから、 何らかの工夫をしなければいけません。

1.3素子だけで実現するには?

では実際にはどのようにしてチャージポンプを実現しているかというと、 コンデンサを付け替えるのは難しいですが、インバータ (NOT ゲート) を用いると入力信号のオン・オフの切り替えだけで、 いわば電源を「逆向きに接続する」ことは容易に実現できることに注目します。
電源を「逆向きに接続する」
図 2 - 入力信号の正負により、二つある出力のうち、どちらがプラス側になるのかを切り替えることができる。 なお、インバータ (回路図中で三角形に小さい○のついた記号で表したもの; NOTゲート) は入力 (左側の電圧) が正の時には負を出力し、 入力が負の時には正を出力する半導体素子
このことを応用することで、図1 のようなコンデンサの付け替え操作を入力のオン・オフ (正負の切り替え動作; 「スイッチング」という) だけで実現することができます。
一段のチャージポンプの動作の様子
図 3 - 一段のチャージポンプの動作の様子。 入力電圧の切り替え動作 (スイッチング動作) だけで入力電圧の約二倍の電圧を取り出せる
上の図に示した回路がチャージポンプの基本モジュールで、 入力電圧の約二倍の電圧[5]を取り出すことができます。 実際には図3 の下段の状態で止めてしまうと、 コンデンサの自然放電や出力側に接続した負荷へ流れる電流によってどんどん電圧は下がっていってしまいますから、 入力を高速でオン・オフさせることで、電圧を維持する必要があります。

1.4二倍圧チャージポンプ

ところが、図3 の回路では下の図から上の図へ切り替わると、 コンデンサの電圧 (出力電圧) が入力電圧と同じ $V$ に戻ってしまいますので、 これを防ぐために出力段にコンデンサ (と逆流を防ぐためのダイオード) をつけてあげる必要があります。
二倍圧チャージポンプ回路
図 4 - 二倍圧チャージポンプ回路
この回路が二倍圧のチャージポンプ回路となります。 [6]

1.5n 段 n+1 倍圧チャージポンプ

さて、それでは二倍以上の電圧が欲しい場合にはどうすればいいでしょうか? 答えは簡単で、図3 に示した基本モジュールをたくさん用意し、入力側と出力側を次々につなげた回路を考えれば OK です。
$n$ 段のチャージポンプ回路
図 5 - 図3 の回路を $n$ 個組み合わせたチャージポンプ回路。 入力電圧の $n+1$ 倍の出力が得られる
なお、一見すると電圧を $2$ 倍にする回路を $n$ 個つなげているので、 $2 \times 2 \times \cdots \times 2 = 2^n$ 倍の電圧になるのではないかと思われますが、 実際にはこの回路は $n+1$ 倍の電圧を出力する回路です。
練習問題 1
5 の回路が入力電圧の $2^n$ 倍ではなく、 $n+1$ 倍の電圧を出力するものであることを確認せよ。
ヒント: インバータ (NOT ゲート) のハイレベル出力は入力電圧と等しいことに注意せよ
5 の回路では $n$ 個のインバータを用いていますが、 インバータを二回かませると元の電圧に戻りますので、明らかにこんな数は必要ありません。 そこで不要なインバータを除去すると以下の回路を得ることができます。
$n$ 倍圧チャージポンプ回路 (最終版)
図 6 - インバータを必要最小限の数に減らした $n$ 段の $n+1$ 倍圧チャージポンプ回路
入力電圧のちょうど $n+1$ 倍の電圧が欲しい場合には上の回路を作成し、 入力端子の電圧を一定周期でオン・オフしてあげれば OK です。
それでは、整数倍以外の電圧、例えば $5 \text{V}$ の電源から $12 \text{V}$ の電圧を得たい場合にはどうすればいいでしょうか? いろいろな方式が考えられますが、多く用いられている方法は出力電圧を監視し、 出力電圧が欲しい電圧 $12 \text{V}$ を下回っている場合にはスイッチング動作を継続し、 逆に出力電圧が欲しい電圧よりも高くなってしまった場合にはスイッチング動作を停止してあげる、 というフィードバック制御を行ってあげるというものです。
なお、以下では図 6 の回路に対して議論していきますので、 分からなくなってきたらこの図に立ち返って考えながら読み進めていただけると幸いです。

[1]すべての携帯電話が 5V で充電できるように作られているわけではないと思いますが、 少なくとも USB で充電するタイプのものは (USB の規格上) 必ず 5V となります
[2]「交流 100V」は実効値が 100V という意味ですので、 直流に変換するとピーク電圧値 $\sqrt{2} \times 100 \text{V} \simeq 141 \text{V}$ が得られることに注意してください
[3]入力が交流の場合には直流に直さなくても、トランスと呼ばれる、 巻き数の違うコイルを組み合わせた装置を用いることで交流から直接、電圧を変換することもできます。 ところがトランスは鉄心に銅線を巻きつけた装置であり、 非常に重く、かさばってしまい、持ち運びに不便です。 一方、直流同士の電圧を変換する DC/DC コンバータは比較的小型・軽量ですので、 最近ではトランスを用いることは少なくなってきました。 「昔の AC アダプタは重くてデカかったけど、最近のものは軽いし小さいなぁ」と感じている方も多いかと思われますが、 これは DC/DC コンバータ (半導体技術) の進化の賜物(たまもの)だったりします
[4]「コンデンサを用いるタイプ」の一種として「チャージポンプ」が存在するという書き方をしましたが、 実際にはコンデンサを用いた DC/DC コンバータはチャージポンプ以外には殆ど (全く?) 存在しないようです
[5]ただし、実際にはダイオードの順方向電圧の影響により、 二倍よりも少しだけ小さな電圧になってしまいます
[6]なお、最終段のコンデンサは負荷の急激な変化に備えて多くの電荷を蓄えておけるように、 容量が比較的大きなものをつけることが多いようなので、回路図では最終段のみ電解コンデンサにしました

2理論性能評価

それではいよいよ、チャージポンプの特性を計算していきましょう。 なお、以下ではチャージポンプの段数を $n$ とします。 $n$ 段のチャージポンプは $n+1$ 倍の電圧を出力できる回路ですので、混乱しないように注意してください。
ここで求めるのは以下の二つです。
  • 最大供給可能電流
    チャージポンプでは $n$ 個のコンデンサがバケツリレー的に電荷を入力側から出力側に運ぶことで昇圧を行うことができていますが、 コンデンサの静電容量は有限ですので、一度に運べる電気量 $\Delta Q$ も有限となります。 従って、出力できる電流の最大値 $I_\text{max}$ は、スイッチング動作の周波数 $f$ に電気量をかけたものであり、 $I_\text{max} = f\Delta Q < \infty$ と有限の値です。 そこでチャージポンプが出力することのできる電流の上限値を求めてみます
  • 変換効率
    チャージポンプには抵抗器がないため、一見すると電力消費は無いように思えますが、 コンデンサに電荷をチャージするときには、コンデンサの内部エネルギー変化と同じだけのエネルギーが 必ず回路のどこかで消費されてしまいますので、消費電力は $0$ とはなりません。 そこでチャージポンプが消費する電力量を求めてみます

2.1準備

具体的な計算に入って行く前に、各種変数の定義や解き方の方針を述べたいと思います。

2.1.1前提条件

まずチャージポンプの「何を求めたいのか」を明確にしておきます。 (電源投入時の立ち上がり特性が重要になる場面等もあるかと思いますが) ここでは定常状態における特性のみを求めることにします。 ここで定常状態というのは、一回のスイッチング動作 (以下では「一サイクル」と呼びます) において 各コンデンサの電気量 (電圧) が変化しないことをいいます。
通常はフィードバック制御などにより出力電圧 $V_\text{out}$ を入力電圧 $V_\text{in}$$n+1$ 倍 よりも少しだけ小さな値に保つようにするため、ここでも $V_\text{out} < (n+1) V_\text{in}$ であり $V_\text{out}$ は一定であるとします。 この場合には一回スイッチング動作を行うと、運ばれてきた電荷によってわずかに出力電圧が上がってしまいます[1]が、 運ばれてきた電荷と同じ量の電荷がすぐさま負荷によって消費されることで、 出力電圧はすぐに $V_\text{out}$ に戻り、出力電圧がどんどん増えて行くことはないと思ってください。
チャージポンプにはダイオードを用いていますが、ここでの計算では簡単のためにダイオードの順方向電圧は無視することとします。 つまり、ダイオードは理想的なダイオードであるとします。

2.1.2解き方の方針

全体的な解き方の方針としては、チャージポンプの第 $k$ 段に着目し、 スイッチング動作によってコンデンサの電荷や電圧がどのように変化するのかを考えることで、 $k$ に関する漸化式を立て、これを解いていくことにします。
そのために、以下の量を導入します。
  • $C_k$ …… 第 $k$ 段目のコンデンサの静電容量
  • $V_k$ …… 第 $k$ 段目のコンデンサの片側が $0 \text{V}$ のときに、コンデンサにかかる電圧
  • $V_k'$ …… 第 $k$ 段目のコンデンサの片側が $V_\text{in}$ のときに、コンデンサにかかる電圧
  • $\Delta Q_k$ …… 入力端子のオン・オフ切替時に、第 $k$ 段目のコンデンサに入る or 出ていく電気量
言葉だけだとちょっと分かりにくいと思うので、以下の図を参照してください。
チャージポンプの k 段目の様子 (グラウンド接続時)

チャージポンプの k 段目の様子 (電圧入力時)
図 7 - チャージポンプの第 $k$ 段目にかかる電圧と、ダイオードの短絡・非短絡状態を図示したもの。 上の図は第 $k$ 段目のコンデンサの片側がオフ状態 (グラウンド接続) の場合、 下の図は第 $k$ 段目のコンデンサの片側がオン状態 (入力に接続) の場合を表す

2.2計算

以上の問題設定のもとで計算を進めていきましょう。 前述したように、$\Delta Q_k, V_k, V_k'$ に関する漸化式を立て、 その漸化式を解くことで未知変数である $\Delta Q_k, V_k, V_k'$ の値を求めていきます。

2.2.1境界条件

チャージポンプの入力段と出力段に注目すると、それぞれ以下の境界条件が成り立つことがわかります。
\begin{equation} V_1 = V_\text{in} \end{equation}
(1)
\begin{equation} V_\text{in} + V_n' = V_\text{out} \end{equation}
(2)

2.2.2漸化式

まず、各コンデンサに出入りする電気量 $\Delta Q_k$
\begin{equation} \Delta Q_k = C_k (V_k - V_k') \end{equation}
(3)
で表されることに注意します。
7 の上段の図から下段の図へ切り替わる時のことを考えると、 コンデンサ間を電荷 $\Delta Q$ が移動しますので、電荷保存の条件から次の式が成り立ちます。
\begin{equation} C_k V_k + C_{k+1} V_{k+1}' = C_k V_k' + C_{k+1} V_{k+1} \end{equation}
(4)
式を整理すると
\begin{equation} \underbrace{C_k (V_k - V_k')}_{\Delta Q_k} = \underbrace{C_{k+1} (V_{k+1} - V_{k+1}')}_{\Delta Q_{k+1}} \end{equation}
(5)
を得ます。 この式の左辺は第 $k$ 段目のコンデンサの電荷の移動量、右辺は第 $k+1$ 段目のコンデンサの電荷の移動量を表していますので、 これらが等しいということは、すべてのコンデンサに全く等しい量の電荷が行き来していることを意味しています[2]。 従ってすべての $\Delta Q_k$ は一致しますので、以下ではこれらを
\begin{equation} \Delta Q := \Delta Q_1 = \Delta Q_2 = \cdots = \Delta Q_n \end{equation}
(6)
と添字を取り払ってしまいます。
次に図 7 の下段の図において電圧則から
\begin{equation} V_k' + V_\text{in} = V_{k+1} \end{equation}
(7)
が成り立つことに注意すると、
\begin{align*} \Delta Q & = C_k (V_k - V_k') \\ & = C_k (V_k - (V_{k+1} - V_\text{in})) \end{align*}
(8)
すなわち
\begin{equation} V_{k+1} = V_k + \left( V_\text{in} - \frac{\Delta Q}{C_k} \right) \end{equation}
(9)
が成り立ちます。 これは単なる等差数列の漸化式ですので簡単に解くことができて、
\begin{equation} V_k = V_1 + \sum_{l=1}^{k-1} \left( V_\text{in} - \frac{\delta Q}{C_l} \right) \end{equation}
(10)
を得ます。 境界条件 $V_1 = V_\text{in}$ に注目して式を整理すると、
\begin{equation} V_k = k V_\text{in} - \Delta Q \sum_{l=1}^{k-1} \frac{1}{C_l} \end{equation}
(11)
となります。
従って (7) 式から
\begin{equation} V_k' = k V_\text{in} - \Delta Q \sum_{l=1}^{k} \frac{1}{C_l} \end{equation}
(12)
とわかります。 $V_k$$V_k'$ は非常に似通った式ですが、総和をどこまでとるのかが異なっていることに注意です。
最後に $\Delta Q$ を求めます。 まだどこにも用いていない、出力段の境界条件 $V_\text{in} + V_n' = V_\text{out}$ を使うことを考えましょう。 (11) 式で $k = n$ とおくと、
\begin{equation} V_n = n V_\text{in} - \Delta Q \sum_{l=1}^{n-1} \frac{1}{C_l} \end{equation}
(13)
ですから、$\Delta Q = C_n (V_n - V_n')$ を用いて
\begin{align*} V_n' & = V_n - \frac{\Delta Q}{C_n} \\ & = n V_\text{in} - \Delta Q \sum_{l=1}^{n} \frac{1}{C_l} \end{align*}
(14)
これと出力段の境界条件
\begin{equation} V_n' = V_\text{out} - V_\text{in} \end{equation}
(15)
より
\begin{equation} \Delta Q = \left( \sum_{l=1}^n \frac{1}{C_l} \right)^{-1} \bigg( (n+1) V_\text{in} - V_\text{out} \bigg) \end{equation}
(16)
と求まりました!

2.3まとめ

以上の結果をまとめておきます。
公式 1: $n$ 段チャージポンプの公式
\begin{align*} \Delta Q & = \left( \sum_{l=1}^n \frac{1}{C_l} \right)^{-1} \bigg( (n+1) V_\text{in} - V_\text{out} \bigg) \\ V_k & = k V_\text{in} - \Delta Q \sum_{l=1}^{k-1} \frac{1}{C_l} \\ V_k' & = k V_\text{in} - \Delta Q \sum_{l=1}^{k} \frac{1}{C_l} \end{align*}
(17)
通常は、チャージポンプの各段のコンデンサの静電容量は全く同じものを用いますので[3]$C := C_1 = C_2 = \cdots = C_n$ とすると以下の公式を得ます。
公式 2: すべてのコンデンサの静電容量が同一の場合
\begin{align*} \Delta Q & = \frac{C}{n} \bigg( (n+1) V_\text{in} - V_\text{out} \bigg) \\ V_k & = k V_\text{in} - (k-1) \frac{\Delta Q}{C} \\ V_k' & = k V_\text{in} - k \frac{\Delta Q}{C} \end{align*}
(18)
普通、チャージポンプの段数を決めるときには最も少ない段数で済むように設計するため、 入力電圧・出力電圧・段数の間は次の関係を満たしていることが常です。 なお $n$ 段のチャージポンプは入力電圧の $n+1$ 倍までの電圧を出力できることに注意してください。
\begin{equation} n V_\text{in} < V_\text{out} < (n+1) V_\text{in} \end{equation}
(19)
従って、$\Delta Q$ の式の右辺の括弧内は $(n+1)V_\text{in} - V_\text{out} < V_\text{in}$$n$ に依存しない、ほぼ一定の大きさの値ですから、段数を多くしていくと $C/n$ の係数によって
\begin{equation} \Delta Q \propto \frac{1}{n} \end{equation}
(20)
と、段数に反比例して供給可能電気量 (電流) が下がっていってしまいます。 そのため、昇圧型のチャージポンプの段数は大抵のものは一段 ($n=1$) 二倍圧 (「ダブラ」という) か、 せいぜい二段 ($n=2$) 三倍圧程度のものしか用いられないようです[4]

2.4性能評価

2.4.1供給可能電流

一サイクルあたりに運ぶことのできる電気量は上で求めた $\Delta Q$ ですから、 これに動作周波数 $f \text{[Hz]}$ をかけ算したものが理論的に予想される、 最大供給可能電流量 $I_\text{max}$ です。 すなわち
公式 3
\begin{align*} I_\text{max} & = f\Delta Q = f \left( \sum_{l=1}^n \frac{1}{C_l} \right)^{-1} \bigg( (n+1) V_\text{in} - V_\text{out} \bigg) \\ & = f \frac{C}{n} \bigg( (n+1) V_\text{in} - V_\text{out} \bigg) \\ \end{align*}
(21)
です。 ただし二行目の式は各段のコンデンサの静電容量が全て等しいとした場合の式です。
次に典型的な $I_\text{max}$ の値を求めてみましょう。
まずは二倍圧の場合として、各変数を以下の値とします。 なお、米国 Maxim Integrated 社のチャージポンプ型 DC/DC コンバータ IC MAX619 (日本語データシートへの直リンク) の値を参考にしました。
\begin{align*} n & = 1 \\ C & = C_1 = 0.22 \mathrm{\mu F} \\ V_\text{in} & = 3 \text{V} \\ V_\text{out} & = 5 \text{V} \\ f & = 500 \text{kHz} \end{align*}
(22)
このとき、最大供給可能電流を計算すると
\begin{equation} I_\text{max} = 110 \text{mA} \end{equation}
(23)
となります。
実際の回路ではスイッチング動作などにより余計な電力を食いますし、 半導体素子に流すことのできる電流量に限界があるなどの理由で、この値よりも小さくなります。 実際 MAX619 の最大供給電流量は $50\text{mA}$ と、計算した値の半分くらいの小さな値となっております。 ですが、オーダはあっています (二倍しか違わないです) ね。
つづいて三倍圧の場合として、各変数を以下の値とします。 こちらは同 Maxim 社の MAX662A (日本語データシートへの直リンク) の値を参考にしました。
\begin{align*} n & = 2 \\ C & = C_1 = C_2 = 0.22 \mathrm{\mu F} \\ V_\text{in} & = 5 \text{V} \\ V_\text{out} & = 12 \text{V} \\ f & = 500 \text{kHz} \end{align*}
(24)
このとき、最大供給可能電流を計算すると
\begin{equation} I_\text{max} = 165 \text{mA} \end{equation}
(25)
となります。 なお MAX662A の最大供給電流をみてみると、$30\text{mA}$ らしいです。
例えば USB 機器の電源が $5\text{V}$ の直流 $500\text{mA}$ (USB 2.0 の場合) ですので、 これと比べると非常に少ない電流しか供給できないことがわかると思います。 チャージポンプはコンデンサを用いて電荷を「バケツリレー」的に送る方式を採用しているため、 大量の電荷を一気に送ることができません。 そのためこの計算例のように大電流を取り出すことができず、これがチャージポンプの非常に大きな欠点となっています。

2.4.2効率

チャージポンプの効率 (エネルギー効率) $\eta$ を求めましょう。 ここで「効率」は以下で定義されます。
\begin{equation} \eta = \frac{出力側で消費された電力 (W_\text{out} := V_\text{out} Q_\text{out})}{入力側で消費された電力 (W_\text{in} := V_\text{in} Q_\text{in})} \end{equation}
(26)
ただしここで入力側から供給された電気量 $Q_\text{in}$ は、入力端子から供給された電荷以外に、 インバータの出力から供給された電荷も含むことに注意します。
まず、出力側に流れた電流 $Q_\text{out}$ は、 一サイクルあたりにコンデンサたちが交換する電気量 $\Delta Q$ に等しいので、
\begin{equation} W_\text{out} = V_\text{out} \Delta Q \end{equation}
(27)
となります。
一方、入力側が一サイクル辺りに供給する電気量は、第一段目のコンデンサは $2\Delta Q$ 、 第二段目以降の各コンデンサには $\Delta Q$ ですので、
\begin{equation} W_\text{in} = V_\text{in} \times (n+1) \Delta Q \end{equation}
(28)
です。
従って効率 $\eta$
公式 4
\begin{equation} \eta := \frac{W_\text{out}}{W_\text{in}} = \frac{V_\text{out}}{(n+1) V_\text{in}} = 1 - \frac{(n+1) V_\text{in} - V_\text{out}}{(n+1) V_\text{in}} \end{equation}
(29)
です。
この式から、チャージポンプの効率は出力側の電圧 $V_\text{out}$ が高ければ高いほど良くなることが分かります。 しかしながら $V_\text{out}$ が高いと、$I_\text{max}$ の表式を見れば分かるとおり供給可能な電流が少なくなってしまいますので、 いわゆるトレードオフの関係になってしまっています。 ですが、まぁ、電流をたくさん消費しないような場合には、 他の方式ではなかなか真似することのできない効率 (理論的には最高で $100\%$!) を達成できるため、 大電流を必要としない場合には優れた方式であることは間違いないと思います。
練習問題 2
チャージポンプ回路には抵抗器がない (不要な) ため、 一見すると電力を一切消費せずに電圧を変換できるように思われます。 しかしながら実際には上で計算したとおり、入力電圧のスイッチング動作やインバータの動作に必要な電力とは別に 一定量の電力が消費されてしまいます。 これはなぜでしょうか?
練習問題 3
上の計算では「電源のする仕事 $W_\text{in}$」と「出力側になされる仕事 $W_\text{out}$」を求めましたが、 この二つの量は当然ながら一致しません ($W_\text{in} \ne W_\text{out}$)。 ではこの差はどこに行ってしまったかというと、前述の通りコンデンサに電荷をチャージするときに消費されてしまったと考えることができます。 そこで、コンデンサに電荷をチャージするときに消費された仕事 $W_\text{diss}$ (diss = dissipation = 散逸) を求め、 $W_\text{diss} = W_\text{in} - W_\text{out}$ となっていることを確認してください。

[1]出力側に負荷がついていない場合には、出力電圧は $(n+1) V_\text{in}$ まで上昇していってしまいます
[2]なお、これはチャージポンプが定常状態にあるということを仮定しているためにいえることであり、 常にすべてのコンデンサが等しい電気量をやりとりするわけではありません。 例えば立ち上がり時には入力側に近いコンデンサから順に充電されていきますので、 入力側に近ければ近いほど、多くの電荷を授受します
[3]式を見ると分かるとおり、$C_k$ に対して対称です ($C_k$$C_k'$ の値を入れ替えてもチャージポンプの特性は変わらない) ので、 そもそも互いに違う静電容量のものを混ぜる意味がありません
[4]段数の多いチャージポンプが用いられない理由としては、供給可能電流が減っていってしまうという理由以外にも、 部品点数が多くなってしまうなど、他のものも考えられると思いますので、あくまで一つの理由であると受け取ってください

3実験

理論解析は以上ですが、実測値と比較するために実際にチャージポンプによる昇圧モジュールを作成し、 その消費電力などを計測してみました。

3.1設計

作成するのは二段構成の三倍圧チャージポンプで、$V_\text{in} = 5V$ の入力電圧を $V_\text{out} = 12V$ に昇圧するものです。
チャージポンプ用の専用 IC が売られていますが、 わざわざ買いに行くのは少々面倒なので、かわりに手持ちの AVR マイコン (ATtiny13A) で代用することにしました。

3.2回路

今回作成したチャージポンプモジュールの回路図
図 8 - 今回作成したチャージポンプモジュールの回路図
マイコン (回路図左の「ATtiny13A」と書いているやつ) の使い方はさすがに本記事の趣旨からは大きく外れてしまいますので詳しくは解説しませんが、 主に以下のことを行っています:
	# 無限ループする
	while True:
		出力電圧を取得
		if (出力電圧) < 12V:
			スイッチング動作を行う (継続する)
		else: # (出力電圧 > 12V)
			スイッチング動作をしない (停止する)
要するに、「スイッチング動作」と「出力電圧の監視」の二役をやらせています。
用いたコンデンサの静電容量は $1\mathrm{\mu F}$ です。 またスイッチング周波数はマイコンのファームウェア書き換えで (ある程度は) 変更ができるので、 二種類ほど試しています。

3.3組み立て

今回作成した三倍圧チャージポンプモジュール
図 9 - 今回作成した $5\text{V} \rightarrow 12\text{V}$ のチャージポンプモジュール
早速ユニバーサル基板に実装してみました。 24 ピンの DIP サイズに仕上がりました。
左側にある三本のピンは、GND、入力端子、出力端子です。 以下の図のようにブレッドボードに挿して使います。
チャージポンプモジュールの使い方
図 10 - ブレッドボードに挿して使います

3.3.1理論値

本モジュールでの各種変数の値は
\begin{align*} n & = 2 \\ C & = C_1 = C_2 = 1 \mathrm{\mu F} \\ V_\text{in} & = 5 \text{V} \\ V_\text{out} & = 12 \text{V} \\ f & = 12 \text{kHz or} 96\ \text{kHz} \end{align*}
(30)
としました。 これをもとに先ほど求めた公式を使って供給可能電流と効率を求めてみると、
\begin{align*} I_\text{max} & = 18 \text{mA ($12$kHz) or } 144 \text{mA ($96$kHz)} \\ \eta & = 80 \% \end{align*}
(31)
となります。

3.3.2測定

作成したチャージポンプモジュールに対し、出力電圧、効率を測定してみました。
出力電圧 $V_\text{out}$ 効率 $\eta = V_\text{out}I_\text{out}/V_\text{in}I_\text{in}$
図 11 - 今回作成したチャージポンプモジュールの出力電圧 (上図) および効率 (下図)。 赤線はスイッチング周波数 $12\text{kHz}$ のもの、緑線は $96\text{kHz}$ のものをあらわす
スイッチング周波数 $96\text{kHz}$ のものに注目すると、 出力電圧は $2 \mathrm{k\Omega}$ を下回ると $12 \text{V}$ よりも低くなってしまっているので、 だいたい $12 \text{V} / 2\mathrm{k\Omega} = 6 \text{mA}$ 程度までの電流なら出力できるようです。 理論値では $96\text{kHz}$ の場合には $144\text{mA}$ まで供給できるということでしたが、 これを大きく下回る結果となってしまいました。
また、効率に関しても計算したものと比べるとかなり落ちてしまっています。 マイコン自体がいくらか電力を消費するため、その影響が大きいのではないかと思います。
負荷 10Ω のときのマイコンの出力電圧 負荷 100Ω のときのマイコンの出力電圧
図 12 - 負荷として $10\mathrm{k\Omega}$ (上図) および $100\mathrm{\Omega}$ (下図) のときのマイコンのピンの出力電圧。 横軸は $1\text{div} = 100\mathrm{\mu s}$。 上図は $0 \sim 5 \text{V}$ まで振れているが、下図は $0.8 \sim 3.8\text{V}$ の範囲に収まってしまっている
理論値よりも極端に性能が悪化する主たる原因は、おそらくマイコンが一度に大量の電流を流すことができないためだと思います。 実際にオシロスコープを用いてマイコンのピンにかかっている電圧をみてみると上の図のようになりました。 負荷が大きく ($10\mathrm{k\Omega}$) 電流があまり流れない場合には上の方のグラフのように $0\text{V} \sim 5\text{V}$ までフルスイングしていますが、 負荷が小さすぎる ($100\mathrm{\Omega}$) 場合には下の方のグラフのように $0.8\text{V} \sim 3.8\text{V}$ 程度までの電圧幅しか触れておらず、 マイコンの出力が負荷に「ついていけてない」ことがわかります。

4参考資料

本記事を作成するにあたって参考にしたウェブサイトです。 どれも (このページには書いていない) 有用な情報がたくさん載っていますので、 適宜ご参照ください。